2016年にLOW HIGH WHO?レーベルよりデビューしたポエトリーリーディング界の急先鋒春ねむりのファースト・フルアルバムが満を持して登場。言葉はもちろんトラックも自身が手がけ圧倒的な作家性を確立している。宮沢賢治の同名詩集を引用した「春と修羅」を中心に「鳴らす」「世界」と言った言葉が全曲に配され50分間全体で「現代の孤独」という心象風景を構築している。間奏曲的に挿入されるトラック/朗読による3曲の「zzz」が楽曲間を綺麗に橋渡しをし、全曲が一連の音楽になるよう成立させている。ロックで必死なのに、詩的で寂しい、得も言われぬ空気を創生した傑作。
〈RO JACK〉優勝、後藤まりことの共作シングルのリリース、東京女子流“ラストロマンス”の制作などなど、2017年から今年にかけて八面六臂の活躍を見せ、話題を振り撒いている〈うたう最終兵器〉春ねむり。待望のファースト・フル・アルバムは、その比類なき才能を証明するのに申し分ない快作となった。〈きみのいのちをいますぐ鳴らして〉(“MAKE MORE NOISE OF YOU”“鳴らして”)というリリックに象徴されるような、衒いなくストレートにスピットされる言葉の数々は切実。だが、『春と修羅』がヘヴィーに感じないのは、その歌声がポップで軽やかだからだろう。“夜を泳いでた”のようなエレクトロニックなプロダクションもある一方、大半の曲で聴かれるパンキッシュなギターやドラムスが強烈な印象を残す。ラップとロック・ミュージックとの幸福な邂逅、そして新鮮な融合のかたちが『春と修羅』からは感じられる。そうしたユニークなサウンド、そして、どこかデビュー時の七尾旅人を思わせる表現の切実さが、〈新進気鋭のフィメール・ラッパー〉というステレオタイプやバイアスを力強く打ち破っている。