SPEAKING OF DIVERSITY
[ 特集 ]日本語ラップの多様性

悠長に振り返ってるヒマもないくらい、進行形の注目作がリリース・ラッシュ。こんな多様に拡張しているからこそ、日本語ラップの最高はひとつじゃないのだ!

★Pt.1 MONYPETZJNKMN『磊』
★Pt.2 SALU『INDIGO』
★Pt.4 野崎りこん『野崎爆発』
★Pt.5 TWINKLE+『JAPANESE YEDO MONKEY』

 


HARU NEMURI
いくつ言葉を並べたら心の空洞は埋まるだろう?

 ラップという表現方法には、通常の歌に比べてより多くの言葉を詰め込みやすいという特性があるが、春ねむりの場合は、きっと自己の内心に眠るもやもやとした感情を解き放つために、たくさんの言葉を重ねる必要を感じたのだろう。そのポエトリー・リーディングにも近いフロウで紡がれる散文的な詞世界は、自作のトラックと共に瑞々しくも無常の儚さを帯びた心象風景を結び、昨秋にLOW HIGH WHO?から発表されたデビュー・ミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』によって一気に拡散していった。

春ねむり アトム・ハート・マザー disc label(2017)

 そこからも、Paranelの別名義であるNelhateやGOMESSといったLHW?勢の新作に客演し、レイトをゲストに迎えたリミックスを配信するなど、間断なく動いてきた彼女だが、早くもセカンド・ミニ・アルバム『アトム・ハート・マザー』を完成させたのだから凄まじい創作意欲だ。まず〈原子心母〉なタイトルがオールド・ロック好きならば思わず反応してしまいそうだが、そことの直接的な繋がりは窺わせないものの、前作に増して彼女が言うところの〈ジャンルはたぶんヒップホップで、こころはロックンロール〉な部分が表出した作品になっているのは間違いない。特にリード・トラックの“いのちになって”は完全なバンド・サウンドで、彼女が過去にカヴァーした神聖かまってちゃんにも通じる蒼さを爆発させたようなささくれロックに乗せて、〈生きる〉ことの切実さとそこへの執着を淀みなくぶつけていく。安穏とした世界との決別を宣言したとも取れる“TOKYO CALLING”も終盤で轟音ギターとブラスト・ビートが飛び出し、その身に抱える感傷を燃え尽くさんばかりの勢いだ。

 さらにそういったアレンジの要素のみならず、声の表現においても端々で激情的な感覚をもたらしているところが本作の特色。性急な3拍子のリズムが切迫感を煽る“アンサー・ワルツ・ロマンス”などの、か細くも存在感のあるエアリーな声がどこまでもエモーショナルに染まっていく様は衝撃的ですらある。

 メランコリックな熱を有したライヴでの人気曲“ぼくは最終兵器”もCD初収録され、彼女のアグレッシヴな面が前に出た感のある本作。ジャケット・イラストの女性の胸の部分にはぽっかりと穴が空いているが、“空気人形”で〈この胸のからっぽにぜんぶのみこんでせかいとたたかおう!〉とラップしている通り、これはみずからの心の空ろをも武器にして音楽に対峙せんとする決意表明でもあるはずだ。何といっても〈こころはロックンロール〉なのだから。