綿菓子のようなスウィート・ヴォイスと、インド古典楽器シタールをはじめさまざまな楽器を用いた摩訶不思議なサウンドで話題を集めるシンガー・ソングライター、ミナクマリ(minakumari)が通算5枚目のアルバム『shanti, shanti, shanti!』をリリースした。

本作は、前作に引き続き清水ひろたか(元コーネリアス・グループ、プラスティック・オノ・バンド)によるプロデュース。インドやフォーク、ジャズなど多彩なジャンルをミックスした、まるで桃源郷に降り注ぐ調べのような9曲が収められている。

これまでにU-zhaanや七尾旅人、CHARA、新居昭乃、ハナレグミらと共演してきたミナクマリ。一方、清水もデヴィッド・バーンやルー・リード、オノ・ヨーコなど世界に名だたるアーティストとセッションした経験を持つ。そうしたコラボレーションは、本人たちの音楽性にどのような影響を与えてきたのだろうか。今回は、ミナクマリと清水の2人にアルバム制作についてのエピソードを聞きつつ、これまでの音楽人生も振り返ってもらった。

minakumari shanti, shanti, shanti! chai chai(2018)

 

シタールで弾き語りなんて相当変わってますよね

――ミナクマリさんは、どんなきっかけで音楽をはじめたんですか?

ミナクマリ「中学3年生の時にいろいろあって、〈娘は学校へは行きません〉と両親が校長先生へ話をしにいってくれて、学校から承諾を得て、その後バイトをしてたんです。それでお金を貯めてクラシック・ギターを買って、習いに行きはじめたのがキッカケですね。当時聴いていたのは、ボサノヴァからロックまで幅広くて。特に、日本のDOVEが好きで〈自分でもバンドやりたい〉と思うようになっていきました」

MONOのGOTOが在籍していたスリーピース・バンド。92年に解散

――ちょうどバンド・ブームの頃ですよね。

ミナクマリ「そう。で、高校に入学して音楽スタジオでバイトしていたら、CATCH-UPという女の子バンドのメンバーと知り合って、そこにギタリストと作曲担当として加入することになったんです」

『shanti, shanti, shanti!』の全曲トレイラー
 

――インド音楽に興味を持つようになったのは、どんなキッカケだったんですか?

ミナクマリ「私の通っていた自由の森学園は、ちょっと変わった高校で、校則がなく、自由だったんです。在学中にピースボートで世界を周りアジアに興味を持ったこともあって、アジア・アフリカ語学院に入学したんですよ。しかも、〈どうせなら、人と違うことをやってみたい〉と思ってヒンディー語を専攻したんです。そしたらインドの音大を出た先輩が、練習用のシタールをくれて。それをCATCH-UPのレコーディングで使ったらおもしろいかなと思ったんですけど、ぜんぜん上手く弾けない。それで、ちゃんと習おうと思ってシタール奏者の加藤貞寿さんのところへ習いに行ったのがキッカケですね」

――それでカルカッタへ行き、加藤さんの師匠でもあるモニラル・ナグ氏に師事されたわけですね。

ミナクマリ「そうです。その頃はもうCATCH-UPは活動休止状態で、2年間のインド留学を終え日本へ帰国したあと、当時好きだったフアナ・モリーナみたいなことを、シタールを使って1人でやったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。インドで知り合ったU-zhaanからは、〈声が可愛いから歌ってみたら?〉と言ってもらえたのも大きな後押しになりましたね。デモテープを作ったりするのは前から好きだったし、フアナのカヴァーとかをやりながら少しずつ自分の表現方法を見つけていきました」

――清水さんとミナクマリさんが知り合ったのは?

清水ひろたか「確か2003年だったと思うんですけど、僕はCHARAの『夜明けまえ』というアルバムをプロデュースしていて。そのころCHARAは〈遊びでバンドが組みたい〉とか言ってて、そこにミナちゃんがいた。それがファースト・コンタクトだったのかな」

ミナクマリ「そうでしたっけ。ぜんぜん覚えてないな(笑)」

清水「その後、結構インターバルがあるんですけど、僕は震災以降、1人でライヴをやることが多くなって。山梨でライヴをやったときに、偶然ミナちゃんと再会した。それから無理にお願いして、いろいろツアーに連れて行ってもらうようになって今に至ります(笑)」

――清水さんは、ミナクマリの音楽を初めて聴いたとき、どんな印象だったんですか?

清水「まず、シタールで弾き語りなんて相当変わってますよね(笑)。不思議な音楽だなっていう印象でした。だって、楽器の構造からしてムチャなことをやってるし、〈そんな大変な思いをしてまでシタールでやることないのに〉と正直思ったところもある(笑)」

ミナクマリ「初めて一緒にツアーしたとき、確か静岡のライヴで“Sweet Maroon”という曲に参加してくれたんですよね。後奏の即興パートでソロを弾いてくださったんですけど、すっごい感動して涙が出ました。なんというか、ハートがじわっと暖かくなったんですよ。その感動を忘れないようにしたくて、絵まで描いたんです」

 

もはやカレー味はほとんどない

――ライヴだけでなく、制作にも関わるようになったのは『Meena』(2015年)からですよね。

清水「『Meena』では、“Aaj” と“脱皮”のアレンジ&レコーディングをやらせてもらって。次の『REHENA』(2016年)から全面的にプロデュースするようになっていきました。そのアルバムに入っている“4337”っていうのがすんごい曲で。もらったデモテープにはメロディーしか録音されてなくて、〈ナンジャコリャ?〉ってなりました(笑)」

ミナクマリ「(笑)。何も入れておかないほうが、考えやすいかなと思ったんですよ」

清水「ときどきそういうことはあるけどね。以前、マイク・ワット(ミニットメン)から送られてきたデモテープには、ベースラインしか入ってなくて困ったことがあった(笑)。まあ、それはともかく何が何だかわからなかったんですけど、とりあえず思いついたフレーズを入れて戻した記憶があります。『Meena』『REHENA』そして今作『shanti, shanti, shanti!』と聴いてもらうと、だんだんツアーも重ねているうちに慣れ親しんだ曲になっていったのがわかると思います。そのぶん、悪ふざけもどんどん増えていくけど」

『shanti, shanti, shanti!』収録曲“黒猫”
 

清水「要は〈カレーの隠し味として何をぶち込むか?〉をテーマに前作『REHENA』から作っていたんですけど、どんどんエスカレートしてしまって……。〈隠し味〉どころか、ラーメン二郎じゃないけど〈増し増し〉でドバドバ入れていく感じになってきましたね(笑)」

ミナクマリ「もはやカレー味、ほとんどない」

清水「新作の4曲目に収録している“Quiet”という曲も、当初はシタールの弾き語りみたいなシンプルなアレンジを考えていたんですけど、もうちょっと厚みがあったらいいかなと思って重ねていくうちに、大河ドラマみたいな曲になっちゃった(笑)。ティンパニーとか初めて使ってみたんだけど、楽しかったですね。そんな感じで、どの曲も、どこかしらクスッと笑えるアプローチがあると思うんですよ」

――確かに。個人的には“Soul Maker”が今までにない曲調でびっくりしました。〈え、これ本当にミナクマリ?〉って(笑)。

清水「あの曲は、かなりふざけてます(笑)。ミナちゃんはあまりブラック・ミュージックの影響を受けてないと思うんだけど、タイトルも“Soul Maker”だしあえてそういう要素も入れてみたんです。僕のなかでソウルといえば、カーティス・メイフィールド、スライ・ストーン、それからアイズレー・ブラザーズ。ミナちゃんのデモを聴いていると、ときどきそういう要素が不思議と聴こえてくるので、それを発展させていった感じかな」

――ミナクマリさんのメロディーにはときどきソウルっぽい歌い回しがあるなって思っていました。それって、CHARAさんの影響なのかなと。

ミナクマリ「あ、そうかもしれない」