その解散から15年を経たいま、スティーヴ・メイソンに〈元ベータ・バンドの……〉と冠を付ける必要はないだろう。確かに、同バンドが鳴らしていた、ベック以降の曇天サイケ・フォークとでも言うべき、ひねくれたサウンドの実験性/折衷性はこれまでも度々振り返られてきた。だが、そのフロントマンたるスティーヴは、当初はキング・ビスケット・タイムとして、そして2010年以降は本人名義で優れたアルバムを送り続けているのだから。

前アルバム『Meet The Humans』から約3年ぶりとなる本作もまた、彼のディスコグラフィーを汚すことのない傑作だ。そして、〈光について〉というタイトルが象徴するように、これまででもっともブライトフルに幸福感を収めたアルバムになっている。英国ロックの名手、スティーヴン・ストリートをプロデューサーに迎え、「僕らが演奏したときのエネルギーを落とし込みたかった」とライヴ・バンドと共に録音。その結果、勇猛なホーン・セクションと力強いリズムが高揚感を喚起しつつ、作品全体には演奏家同士がウィンクを交わし合うような親密さが拡がっている。アメリカ南部のソウルやブルースが醸す優しいメランコリア、ギター・サウンドのタフさと艶やかさは、昨年プライマル・スクリームが発掘した『Give Out But Don’t Give Up』のメンフィス録音盤にも近しい。

ここ数作は、イギリス政府の緊縮政策など社会への怒りと失望や、みずから抱えている鬱との格闘など、自身の制御不能な感情をテーマにしてきたスティーヴ。それらと比して、本作がポジティヴィティーに焦点を当てたものになったのには、ブライトンに安住の地を見出し、伴侶を見つけ父親となったことも無関係ではないだろう。だが、世界中の多くがそうであるように、彼の暮らす英国もまた、分断と対立が激化している。だからこそ、スティーヴは他者との交歓から本作を産み出すことを選んだのではないか。かつて心を壊した男が〈人生を取り戻して、家に帰る〉と歌う――そのさまがあまりに眩い『About The Light』は、まぎれもなく〈よろこびのうた〉だ。