写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

「一瞬の中にだけ、リアリティはある。だからその一瞬に全力で集中する」

 5月の来日公演が、体調不良によるキャンセルとなったパット・マルティーノ(ギター)。9月最初の週のデトロイト・ジャズ・フェスティヴァルには、昨年リリースされたニュー・アルバム『フォーミダブル』のクインテットで、圧巻のステージを繰り広げて完全復活を聴かせてくれた。9月下旬にはレギュラー・トリオを率いて、今年も日本にやって来た。

 「一瞬の中にだけ、リアリティはある。だからその一瞬に全力で集中する。過去も、未来も、あらゆるツールも、その一瞬に存在しないものは重要ではない」とマルティーノは語る。天才の名をほしいままにした前半生。そして脳動脈瘤の手術で記憶を失いながら、長い時を経て奇跡のカムバックを果たした彼だからこそ、到達できた境地であろう。この集中力が、マルティーノのテンションの高いインプロヴィゼーションの原動力なのだ。

PAT MARTINO 『Formidable』 High Note/キングインターナショナル(2017)

 パット・ビアンキ(オルガン)、カーメン・イントレ(ドラムス)とのトリオは結成7年を迎える。ニュー・アルバムでは、この世界中を駆け巡ったトリオで、初めてレコーディングに臨んだ。さらにニューヨークのビッグバンド・シーンで活躍するアレックス・ノリス(トランペット)、マルティーノの友人であったサックス・プレイヤーのジェリー・ニーウッドの子息のアダム・ニーウッド(テナー・サックス)をゲストに迎え、ファンキーなサウンドに溢れた『フォーミダブル』が完成した。2017年の春のツアーに乗り出す前に、このグループにフィットする曲を入念なリハーサルによってセレクトし、レコーディング・スタジオに入ったそうだ。ジャズ・ジャイアンツの、デューク・エリントン(ピアノ)、チャールス・ミンガス(ベース)、デイヴ・ブルーベック(ピアノ)、故郷フィラデルフィアの先達ハンク・モブレー(テナー・サックス)から、旧友のジェリー・ニーウッド、ジョーイ・カルデラッツォ(ピアノ)のオリジナルに、マルティーノの旧作がブレンドされている。「自分がかつて書いた曲を再演するのは、無意識なサイクルが働いている。人生の中には、そういうサイクルが確かに存在すると思う」。マルティーノは自らのオリジナルに、新たな息吹を吹き込んだ。

 現在準備を進めている新作は、フル・オーケストラとの共演となるそうだ。1990年代初頭、フィラデルフィアのマルティーノの自宅を撮影取材で訪れた筆者は、マルティーノのオリジナル・バレエ曲のスコアを見せていただいた。20数年来温めていたドリーム・プロジェクトが、遂に始動する。ストリングス、管楽器の壮大な音世界に包まれ、その一瞬のサウンドに魂を込めて、パット・マルティーノは不屈の創造力で、また新たな音楽の扉を開け放ち、歴史を刻むであろう。