SoundCloudでの音源発表を足掛かりに認知を広げ、若き俊英が集うダンス・ミュージック・レーベルのTREKKIE TRAXからこれまでに2枚のEPを配信リリースしてきたのが、京都在住のトラックメイカー/シンガーのNative Rapperだ。そのいちばんの個性は、クールなトラックを構築しながらも、あくまで自身のヴォーカルを軸にしたソング・オリエンテッドな作風に見い出せるだろう。このスタイルに至るまでを当人はこう振り返る。
「大学の時はロック・バンドのヴォーカルをしていたのですが、卒業時にメンバーが就職でそれぞれ別の場所に散ってしまい、また新しいことをしたいなと漠然と考えていた頃、親しい先輩とSECOND ROYALなどのパーティーに遊びに行くようになりました。クラブの自由な雰囲気、そこでかかる未知の音楽、集まる人間のおもしろさという魅力にどんどんハマっていき、2014年末くらいからトラックメーカーとして本格的に楽曲を発表しはじめました。ただ、当初はトラックメイキングだけでやっていけるほどのスキルもなかったので、じゃあもう直接的に感情を伝えられる歌やラップもやってしまおうと思い、早い段階から曲作りに採り入れていったんです」。
フロア仕様のトラックを中心にリリースするTREKKIE TRAXにおいて、ポップス志向も併せ持つ彼はやや異色の存在だが、だからこそ耳を惹くものがあったし、レーベルにも良い刺激をもたらしているようだ。
「TREKKIE TRAXはグローバルなレーベルなので、僕のJ-Pop寄りのダンス・ミュージックが海外にどう届いていくのか、すごく興味深かったです。実際にニンジャ・チューンのジラフェッジのような海外の著名なアーティストの方々から反応をもらえたのが嬉しかったですし、逆にふだんバンドの曲しか聴かないような日本のリスナーの方が僕の楽曲をきっかけに他のクラブ・ミュージックを聴くようになったという話を聞かせてもらったり」。
そんなTREKKIE TRAXからこのたび発表されるのが、初のフィジカル作にしてフル・アルバムとなる『TRIP』だ。ベース・ミュージックを基調にした心躍るビートと、極上のメロウネスをさまざまな形で紡いだ美しくキャッチーな全13曲が詰め込まれている。自身が「言葉をダンス・ミュージックに昇華した」と形容するように、日常の機微を汲んだリリックがアルバムの世界観を支えているのも特色だろう。とりわけ、自分を俯瞰しようとするストーリーと享楽的なディープ・ハウスのサウンドが絡む表題曲が素晴らしい。
「こういうディープ・ハウスっぽい曲はいままであんまり作ってこなかったんですが、制作過程ですごくいい感じのグルーヴができて、乗せてみたリリックがこのアルバムの世界観に入り込んでもらうきっかけになるようなものだったので、“TRIP”をアルバム・タイトルにしました」。
トラックメイカー/メロディカ奏者のゆnovationを迎えた“Grand Melodica”は、トラップ気味のビートとラウンジ感のあるピアノがアッパーに交錯するジャンルレスなナンバー。全編を通してチップチューン的な音色やオーセンティックなヒップホップのビートといったヴァラエティー豊かな要素を混ぜ込む手つきもおもしろい。
「ゆnovationとはお互いにブラストラックスがめちゃめちゃ好きという共通点もあったので、ブラス感を全面に出しつつメロディカをセンターに置いた勢いのあるサウンドを作ろうとデータのやり取りを繰り返し、アルバム納期の最終日ギリギリに(笑)完成させました」。
その賑やかなサウンドもさることながら、現行のラップのフロウとはどこか異なる歌唱とメロディーの筆致こそがNative Rapperのオリジナリティーだろう。2019年らしい〈シンガー・ソングライター作品〉として享受したいファースト・アルバムだ。
Native Rapper
京都在住のトラックメイカー/シンガー・ソングライター。SoundCloud上にアップしたオリジナル曲や、水曜日のカンパネラ、tofubeatsらのリミックスが一部で話題となり、2016年にAno(t)raksのコンピ『Azur』に“Black Kangaroo”で参加。同年にTREKKIE TRAXから配信したEP『Mass Maker』で脚光を浴びる。2017年にはluluをフィーチャーした“今更”を配信し、セカンドEPの『Keep It Real』をリリースしたほか、Takakoh“Swing low, Sweet sky”への客演も経験。2018年にはレーベル・コンピ『TREKKIE TRAX THE BEST 2016-2017』に“Water Bunker”を提供。さらなる注目を集めるなか、このたびファースト・アルバム『TRIP』(TREKKIE TRAX)をリリースしたばかり。