親しみやすいキャラクターとナチュラルな感情を映し出すヴォーカル、そして、何気ない日常に温かい光を当てるような楽曲が魅力のシンガー・ソングライター、関取花(せきとり はな)。NHK「みんなのうた」に“親知らず”を書き下ろした昨年は、〈フジロック〉や〈RISING SUN〉といったフェスへの出演、ホール公演を含む全国ツアーなどを通じて大きな飛躍を遂げた彼女がついにメジャー・デビューを果たす。デビュー作は「これまで積み重ねてきたことを土台にして、いまの自分のベスト、関取花の得意な6パターンの楽曲を詰め込みました」というミニ・アルバム『逆上がりの向こうがわ』。70年代の洋楽をルーツにした音楽性、幅広い層のリスナーの共感を呼ぶ歌を含め、彼女のチャームポイントがバランス良く表現された作品に仕上がっている。

関取花 逆上がりの向こうがわ ユニバーサル(2019)

 リード曲“太陽の君に”は、彼女自身が「〈J-Popってカッコイイ!〉と思わせてくれた方」という亀田誠治のプロデュースによるナンバー。切なさと解放感を併せ持ったヴォーカル、ストリングス、ピアノなど生楽器の響きを活かしたサウンドメイク、そして、〈どこにいたって陽だまりになる 水たまりだってスキップで越える〉というCメロのフレーズが心に残るポップ・チューンだ。

 「かなり前に作った曲なんですが、今回のミニ・アルバムに収録することになって、Cメロを新たに追加したんです。私がいちばん聴いているのは、ジェイムズ・テイラーやジョニ・ミッチェルなどの70年代初めの作品なんですけど、その時期の曲はAメロとサビで構成されていることが多くて。そういう曲も大好きなんですが、“太陽の君に”はもっとJ-Popを意識して、泣けるポイントをあえて入れたかったんですよね。オルゴールで聴いても〈いいな〉と感じてもらえるようなメロディー、あまり限定しすぎない、間口の広い歌詞も意識していました」。

 2曲目の“春だよ”は、最近では日向坂46“キュン”の作編曲を手掛けた野村陽一郎がアレンジを担当。「私の中の邦楽のルーツを意識した曲」というこの曲からは、彼女の音楽的バックグラウンドの豊かさが伝わってくる。

 「母親の影響で小さい頃から聴いていたスピッツさんや中島みゆきさんだったり、大滝詠一さんのナイアガラ・サウンドのテイストも大好きなんです。野村陽一郎さんはインディーの頃から何度かプロデュースしてもらって、私の好みもわかってくれていて。今回も〈何も言うことはありません!〉というアレンジにしていただきました。歌詞では、男の子が好きな女の子に会いに行く情景を描きたくて。少年性みたいなものにすごく惹かれるんですよね。夏休み、丸坊主の野球少年がガリガリ君を食べながら歩いているのを見ると、尊さと儚さを感じて泣きそうになっちゃうんです」。

 カントリーの風合いがある“僕のフリージア”、何もしないで過ごすことの大切さを素朴に綴った“休日のすゝめ”、SNS用の撮影に夢中になっている人たちに対する〈それでいいの?〉的なメッセージをユーモアたっぷりに歌い上げた“カメラを止めろ!”、そして、メジャー・デビューに際して「これまでに支えてくれた方々、お世話になった人たちの思いをしっかり持って進んでいきたい」という誠実な思いを込めたバラード“嫁に行きます”など色彩豊かな楽曲が収められた本作。その根底にあるのは、彼女の「日常にある普通の感情を歌にしたい」というスタンスだ。

 「音楽でごはんを食べていこうと決めてから心がけているのは、高校や大学の同級生と遊ぶことなんです。彼女たちが抱えているリアルな葛藤、楽しいと感じていることを知らないと、共感してもらえる曲は作れないと思うので。私もずっと音楽のことを考えていられるタイプではないし(笑)、普通の感覚は常に持っていたいですね」。

 


関取花
90年生まれ、神奈川は横浜出身のシンガー・ソングライター。幼少期をドイツで過ごし、帰国後の高校在学中にバンド活動を開始。2008年にソロ活動をスタートし、2009年の〈閃光ライオット〉にて審査員特別賞を受賞する。2010年にデビュー・ミニ・アルバム『THE』を発表し、並行して〈PlayYou.House〉プロジェクトに参加。2012年の『中くらいの話』より自身のレーベルを拠点にコンスタントに作品を重ねていく。2018年には「NHKみんなのうた」に書き下ろした“親知らず”が話題を呼び、〈フジロック〉に初出演。DOTAMAとのコラボや花澤香菜への楽曲提供を経て、メジャー・デビュー作となるミニ・アルバム『逆上がりの向こうがわ』(ユニバーサル)を5月8日にリリースする。