ジルベルト・ジル全面参加 ホベルタ・サーがジルの魔法で舞うように歌う
サンバのイメージを刷新したアルバム・デビューから早14年。その人気に甘んじることなく現在まで停滞とは無縁に自身の音楽を更新し続けてきた歌姫ホベルタ・サー。音楽的才能に加え非の打ち所のない美貌、一点の淀みのない美声、聡明で凛とした姿勢、さらに親しみのある可愛らしさまでも備えた才色兼備っぷりはまさに姫と呼ぶに相応しいシンガーだ。
ジャンルレスでグローバルなクロスオーヴァーに成功したオルタナMPB作『Segunda Pele』、アコースティックなアンサンブルを主体にサンバへの愛情をストレートに表現した哀愁溢れる前作『DELIRIO』などこれまでブラジル音楽史に残る傑作を多数生み出してきた姫だが、4年振りに発表した本作はあのジルベルト・ジルが全曲を書き下ろし、或いは彼女と共作するという特別な1枚となっている。
軽快なサンバのリズムが心地いいアダルティーな《Ela diz que me ama》ではジルとジョルジ・ベンによる75年以来の共演という究極のトピックスまであり! それにしてもジルによるメロディは60~70年代MPBの伝統とも言える不変なものでホベルタの美声との相性はうっかり作家の存在を忘れてしまう程見事なものだ。とは言いつつ、いつにも増して麗らかに艶やかに弾む歌声、終始リラックスした楽しげなムードなど端々にジルの魔法を感じずにはいられないのだな。
そしてその魔法をより強固なものにしている叙事詩的なギターや、古典的アプローチを尊重しながらも新たな息吹を与え各々の個性を活かしたプロデュースを手掛けるジルの息子ベンの手腕も素晴らしい。ホベルタ作品の特徴である北東部の影響もしっかりと反映されている。
そんな本作は彼女のキャリア最高傑作であるだけでなく、時の流れに左右されないブラジル・ポピュラー・ミュージックの魅力に溢れ、現在/未来を見据えた優しさと美しくさに満ちた作品である。