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【久保憲司の音楽ライターもうやめます】第8回 「マインドハンター」から考えた、チャールズ・マンソンら殺人鬼が生まれる背景

Netflix時代のロック・ファン悲喜こもごも

数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンにして、ウェブページ〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしても活躍しているクボケンこと久保憲司さん。Mikikiにもたびたび原稿を提供いただいております。そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixやhuluの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。

今回のお題は、「ファイト・クラブ」や「ソーシャル・ネットワーク」などで知られる鬼才、デヴィッド・フィンチャー監督が制作総指揮を務めたNetflixドラマ「マインドハンター」。先日、シーズン2が公開されたばかりの同シリーズは、連続殺人鬼の心を読み解くことで、犯罪プロファイリングの手法の確立をめざすFBIの姿を描いています。エド・ケンパーやチャールズ・マンソンなど実際に社会を震撼させた犯罪者も登場する本作を観て、クボケンさんも〈なぜシリアルキラーが生まれるのか?〉――そのメカニズムを考えました。 *Mikiki編集部

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クボケンさんのフィンチャー評

Netflixオリジナルシリーズ「マインドハンター」シーズン1~2独占配信中
 

タランティーノの新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」よりフィンチャーの海外ドラマ「マインドハンター」のほうがおもしろいと思った久保憲司です。チャールズ・マンソンが出てくる以外まったく違う作品なんですけどね(なんと同じ役者が演じてました)。

「ハウス・オブ・カード」「マインドハンター」とデヴィッド・フィンチャーは映画だけでなく、海外ドラマでもすごいです。でも、映画デビュー作である「エイリアン3」は全然おもしろくなかったし、スタイリッシュでダークなサスペンスの傑作とされる「セブン」も僕にはどこか白々しかったです。「ファイト・クラブ」は映画史に残る問題作でしたが、あれはデヴィッド・フィンチャーというより時代が作らせたような気がしていました。だって次は「パニック・ルーム」ですよ。僕がそんなフィンチャーに本当に興味がわくようになったのは「ゾディアック」からのような気がします。

「ゾディアック」は、シリアルキラーを題材にしているが、ショッキングなことは何も起こらない、当時世間がシリアルキラーに恐怖した空気感だけを再現した、味のある映画です。「マインドハンター」もそんな作品です。シーズン1は「羊たちの沈黙」で世間に知られることになった、シリアルキラーを研究することによって、犯人を逮捕していくプロファイリングという手法が、FBIのなかでどうやって形成されていったかを淡々と描いてます。しかもその主人公が結構ダメな奴なんです。そこがいいんです。シーズン2はそんな世界観がどんどんと深みにハマっていくのです。

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詳しく書くとネタバレになるので書かないですが、ひとつだけ最高のネタを書かせてもらうと、主人公はチャールズ・マンソンにインタビューをするにあたって、マイクを買い変えるような奴なんです。

 

シリアルキラーは関係性が生み出す

この海外ドラマのいちばんのポイントは、背景にシリアルキラーは社会や環境によって作られるんじゃなく、人間の関係性によってシリアルキラーになるということを推察しているところ。これってあのスミスの“Suffer Little Children”(84年)で歌われたムーアズ事件の背景そのものなんですよね。犯人のイアン・ブレイディはマイラ・ヒンドリーという恋人に出会うことによって連続殺人を繰り返していく。もしマイラ・ヒンドリーと出会わなかったら、イアン・ブレイディは殺人を犯しただろうか? マイラ・ヒンドリーと違う女性と出会っても同じようなことをしたのだろうか? そういう不思議さが「マインドハンター」にはずっと流れているのです。

※60年代前半にイギリスで起きた、10代の少年少女5名が被害者となった連続殺人事件。犯人は遺体をサドルワース・ムーアと呼ばれる荒野に埋めていた
 

人間とは社会的な動物です。どういうことかというと、人間が個人として存在していても,その個人のみが生活しているのではなく、社会のなかではたえず他者との関係において存在している。つまり個人が社会のうちにおいて生活し生存しているのであり、他者との関係なくしては個人は存在しないということです。「マインドハンター」はこの部分を掘り下げているのです。連続殺人犯には殺人を犯すきっかけとなる触媒のような人物がいつもいる。このことはいったい何なのかというのが、「マインドハンター」の大きなテーマだと思うのです。まさに「マインドハンター」というタイトルなのです。

シリアルキラーはマインドハンターではなく、心を誰かに奪われた人たちなのです。そう描くことによって、共感しにくいシリアルキラーを異端の人と見ることなく、何かのきっかけによって殺人者となっていった人たちと見られるように描いている。だから「マインドハンター」では、主人公が新しいマイクを買い換えるくらいチャールズ・マンソンが重要なのです。あれだけの虐殺を起こしていながら、彼は実は1人も殺していないのです。彼は仲間たちを殺人に追いやっていったのです。

 

チャールズ・マンソンはなぜ虐殺をはじめた?

「マインドハンター』では〈彼は1人も殺していない〉というセリフが何回も出てきますが、チャールズ・マンソンはファミリーのなかで最初に人を殺しているのかもしれない。定説としてはチャールズ・マンソンが導いた虐殺の発端は、ファミリーの人間が起こした殺人をごまかすことから始まったとされていますが、あのような自分勝手な人間が他人のために何かをするとは考えられないでしょう。自分の犯罪をごまかすためにああいう事件を起こしていったと考えるほうが筋が通るかと思います。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観た人はわかるかと思いますが、ファミリーが住んでいた場所は広大な元西部劇の撮影所。死体が埋められていたとしても探せないような場所なのです。

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僕はチャールズ・マンソン好きなので、話がチャールズ・マンソンになっていってしまいました。それにしても海外ドラマであんなにチャールズ・マンソンの曲が流れることないですよね。びっくりしました。久々に聴くと、頭がおかしくなっていたシド・バレットのアコギに、デイヴ・ギルモアが後から音をつけたバレットのソロ作品くらい悪くないな、と思ってしまったのが怖かったです。チャールズ・マンソンのバックもビーチ・ボーイズなどの一流のメンツですしね。

シーズン5まであると噂される「マインドハンター」、これからどんな展開になっていくのか、楽しみで仕方がありません。みなさんもお観逃しなく。