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私だけのやり方で踊ってみせる

そんなオルダスのライヴにおいて、もっとも注目すべきポイントは何か。それは、ケイト・ブッシュをも引き合いに出される彼女の表現力と〈眼力〉に他ならない。以下の映像は、およそ2年半前にイギリスの人気TV番組〈ジュールズ倶楽部〉に出演し、『Party』収録の叙情的なナンバー“Horizon”を披露したときのもの。「時計じかけのオレンジ」のドルーグのように全身真っ白の衣装に身を包み、身振り手振りを交え、目玉をひん剥きながら絶唱する姿には圧倒されるが、痛みも喜びも狂気も闘志もすべてさらけ出す全身全霊のパフォーマンスは、紛れもなく我々の心を突き動かすものがある。

ちなみに英Guardianのインタヴューによると、オルダスはTLCの今は亡きメンバー、レフト・アイの大ファンだったのだという。「彼女はとても奇妙で、おかしくて、可愛い人だったけれど、決して脆くはなかった。 彼女のおかげで、私は自分だけのやり方で踊れていることに気づけたの」。それを裏付けるように、“Blend”のMVでオルダスはターコイズブルーのブラ&ホットパンツで着飾り、拳銃を手に大胆かつぎこちないダンスを踊ってみせている。彼女のことを〈アシッド・フォーク系譜の歌姫〉となんとなく認識していた読者(筆者もそうでした)は、このビデオを見ればきっとイメージが180°変わるはずだ。

2017年作『Party』収録曲“Blend”
 

現在、アメリカ→ヨーロッパ→UKと世界を飛び回っているオルダス。セットリストのネタバレは控えるが、どうやらギター、ベース、ドラムス、キーボードのメンバー4人を引き連れたバンド・セットとなる模様だ。プロ・ショットの映像がほぼ見当たらないのが残念だが、全米TVデビューを飾った〈The Tonight Show Starring Jimmy Fallon〉でのライヴ映像を見れば、『Designer』のツアーにおける彼女のモードがおわかりいただけるだろう。

アメリカでも屈指の視聴率を誇る同番組で、“The Barrel”の〈それはもう死んでる/あなたが鳩を隠し持ってるのはわかってる/私は騙されない/もう日にちは決まってるみたいだけど/イタチに卵のある場所を教えて〉というシュールな歌が響き渡った事実――。レディホーク、キンブラ、ロードに続くニュージーランドの才媛が、お茶の間にその名を轟かせた瞬間である。

 

ついにオルダス・ハーディンスが我々の前に姿を現す

12月15日(日)に渋谷・WWW Xで行われる東京公演は、現時点でオルダスにとって2019年最後のステージ。実は今年1月に4ADのショウケース・イベント〈Revue〉で一度は来日が決まっていたものの、『Designer』の制作に専念すべく出演キャンセルとなってしまったため、ファンにとっては約1年越しの来日公演実現となるわけだ。上下オレンジカラーの労働服だったり、修道服のようなセットアップだったり、各国で奇抜な衣装をまといパフォーマンスを披露してきた彼女だけに、日本ではどんな出で立ちで我々の前に姿を現すのか興味は尽きない。

なお、先述のインタヴューでは「人目を引くアートを作ろうとしたことは一度もないわ。私がやりたかったのは、ただ何かおもしろいことをする。それだけよ」と説明していたオルダス。彼女の生み出す作品にさまざまなアングルから参照点を見出すことも可能だが、もしあなたが〈ヘンテコだけどおもしろいアーティストだな!〉と思ったのなら、その直感は小難しい批評よりも正しいし、意味がある。ストレンジな謎に満ちたオルダス・ハーディングの歌声を、ダンスを、表現を、しかとその目と耳に焼き付けてほしい。

 


LIVE INFORMATION
Aldous Harding 来日公演
2019年12月15日(日)東京・渋谷WWW X
開場/開演:18:00/19:00
前売り:6,000円(別途1ドリンク代) 
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