歴史の浅さゆえに広い可能性を秘めたサクソフォン

 11月4日、東京・渋谷のオーチャードホールで開かれた〈BBC Proms JAPAN 2019〉の最終日に華々しく日本デビューを飾ったジェス・ギラムは、2016年に〈BBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー〉のファイナリストに選ばれたのを機に、国際的な活動を始めたサクソフォンの才媛だ。サクソフォンと言っても彼女はクラシックの奏者で、大会場のコンサートでもマイクを使用しないのが基本。筆者は1階最後列の左端という、ステージからもっとも遠い席で聴いていたが、ふくよかでニュアンスに富んだアルト・サクソフォンの音が堪能できた。

 彼女がサクソフォンに興味を持ったのは、生まれ故郷のイングランド、カンブリア郡で父親が打楽器を教えていた音楽センターで開催された、カーニバルのワークショップに参加したのがきっかけだった。

 「最初の頃はブラジルのサンバや、よりポップな音楽に興味がありましたが、11歳の時からクラシックのサクソフォンを習い始めました。まるでカメレオンのように、いろいろなスタイルの音楽に馴染んでしまうのが、この楽器のユニークな魅力だと思っています」

JESSE GILLAM 『RISE~ジェス・ギラム・デビュー!』 Decca/ユニバーサル(2019)

 16歳の時からギラムにサクソフォンを教え、現在では彼女の音楽活動の良き協力者となっているサクソフォニスト兼作曲家のジョン・ハールは、クラシカルな作品からサウンド・トラック、ポール・マッカートニーやエルヴィス・コステロとのコラボレーションまで、幅広い音楽を手がけている。ギラムのデビュー・アルバムとなる『RISE』もまた、ミヨーやショスタコーヴィチからデヴィッド・ボウイやケイト・ブッシュまで、幅広いレパートリーをカヴァーしている。

 「私はジャンルに対するこだわりがないので、演奏する曲もジャンルとは関わりなく、自分の心の琴線に触れるものを選んでいます。ケイト・ブッシュやデヴィッド・ボウイは汲めども尽きぬ創造力の持ち主で、人間としても個性的だし、声を使った表現力も幅広いところが素晴らしいと思います。私は音楽家として、そんなふたりから大きな影響を受けていますし、サクソフォンという、比較的歴史の浅い楽器の個性や音色を探求する上でも、良い刺激になっています。また、私はクラシックの訓練を受けましたが、ジャズの自由な即興精神からも学ぶべきことが多くて、あらかじめ譜面に書かれたメロディを演奏する時でも、より自由で即興的に感じられるような表現をめざしています」

 今のところはさらなる音楽の勉強や演奏活動で手一杯というギラムだが、将来的には作曲も手がけたいという。彼女の目の前には、まだまだ見渡しきれないほどの可能性が広がっている。

 


TV INFORMATION
大和証券グループ presents BBC Proms JAPAN 2019 / Prom6 Last Night of the Proms
2019年12月29日(日)11:00~11:55に放送(BS朝日)
出演:ジェス・ギラムほか
*放送時間など変更の可能性がございます。予めご了承ください
https://www.bbcproms.jp/