ルイ14世が踊った「夜のバレ」~フランス古楽界を牽引するドセに注目!
「最近の歌手は、バロック音楽を無視できない。20年前とは違う。声楽クラスでは、リュリやラモーのオペラ・アリアを歌わせられる」――最近、フランスバロック音楽の分野では、古楽アンサンブルを率いる若手指揮者の活躍が目立つ。そのひとり、セバスティアン・ドセが単独来日した機会にインタヴューした。
ドセは、1980年生まれ。子供の頃から聖歌隊で歌い、その響きに魅了されて古楽を志した。リヨンの国立高等音楽院(チェンバロと音楽学)を卒業後、自身のアンサンブル・コレスポンダンスを結成。それから10年、ドセは17世紀フランスバロック音楽、特にM.-A.シャルパンティエの宗教音楽のスペシャリストとして歩んできた。最近は太陽王ルイ14世が生まれた頃の宮廷音楽へとレパートリーを広げている。
映画「王は踊る」で、昇る太陽の衣装をつけた少年ルイ14世をご覧になった方もいるだろう。だがそれは、「夜のバレ」の一部に過ぎない。謎めいた作品全体を明らかにしたのが、ドセによるディスク『夜のコンセール・ロワイヤル』であった。摂政マザランが当時最高の芸術家たちを動員した舞台芸術は、音楽、バレエ、幕間劇など80曲以上からなる。だが、残された楽譜は第1ヴァイオリンのパートだけ。ドセは「何年もかけて研究し、当時の作曲家になったつもりで、欠けたパートを補った」という。録音ばかりでない。2017年には、それをヴェルサイユ宮殿のオペラ劇場で舞台化した。初演を観たが、音楽家の他にサーカスやダンサーなど100人以上も登場するアッと驚くような舞台だった(DVD:HMM902603)。嬉しいことに2020年にはヴェルサイユやパリ、さらにヨーロッパ各地で再演が続くという。新しい録音では、シャルパンティエの宗教音楽集のオラトリオが素晴らしい。初録音も含めて、静謐で陰影深い響きに引き込まれていく。2020年には、17世紀前半に貴婦人のサロンで披露された歌曲(エール・ド・クール)のCDも発売される。フランス語の詩の美しい響きと音楽の典雅な装飾は、聴くものを陶然とさせるに違いない。
最後にドセは、2020年春から始まるYoutubeでの斬新なプロジェクトについて語ってくれた。音楽学者2人とヴェルサイユ宮殿やルーヴル美術館が協力した7回シリーズ。ドセによれば、「17世紀フランスの音楽がどのような場所で演奏され、響いていたかが目と耳から感じられる」。しかも「映像があるので、本1冊読むよりも楽。そこからさらに多彩な知識を深めていくことができる」という。近い将来、アンサンブルとともに来日して、フランスバロック音楽の響きを聞かせてくれる日が待ち遠しい。