のちの方向性にも繋がる映画主題歌の発表を経て完成させたのは、日本語詞の歌とアコースティックなサウンドを軸とする映像的な音世界。その新たな挑戦が紡ぐのは、〈この4人だからこそ〉のストーリーで……
4人で作った音楽
今春公開の劇場アニメ「リズと青い鳥」の主題歌“Songbirds”も大きな話題を呼んだHomecomingsが、サード・アルバム『WHALE LIVING』を完成させた。一聴して耳に残るのは、〈日本語詞の歌〉と〈アコースティックなサウンド〉。これまで英語で歌い続けてきた彼女たちにとっての転機作であることは事実だが、本人たちはむしろ〈自分たちらしさを出せた〉と語る。
「前から〈日本語でやりたいね〉って話はあって、実際さっちゃんと一緒に(平賀さち枝とホームカミングス名義で)やったりはしてるから、自分たちのなかではそこまで大きな決断ではなくて。常に新しいことをしていかないと活動が回らないタイプだし、自然と言えば自然なんです。日本語と英語が半々とかじゃなくて、“Songbirds”だけ英詞で他が全部日本語詞っていうバランスがおもしろいかなっていうのもありつつ、実際に日本語で曲を作ってみると楽しくて、〈英語でも作ろう〉っていう流れにはならなかったですね」(福富優樹、ギター)。
チャットモンチーのトリビュート盤に参加して“惚たる蛍”をカヴァーしたり、京都新聞のCM曲として日本語詞の“アワー・タウン”を書き下ろしたりといったタイミングも重なって、徐々に〈日本語の良い歌〉というバンドの方向性が浮かび上がり、さらには従来のリスナーとしての趣向も加わって、アコースティックなサウンドのイメージが形成されていった。
「日本語で歌うとダイレクトに言葉やメロディーが飛び込んでくるから、〈弾き語りの状態で聴いて、すでに良い曲〉っていうのをめざそうって。それで、自動的にアコースティック寄りになっていったっていう流れですね。普段聴いてたのもアコースティックなものが多くて、例えばファーザー・ジョン・ミスティとか」(畳野彩加、ヴォーカル/ギター)。
「マックス・ジュリーとかニコのソロ、エミット・ローズとか、わりと4人が聴いてるものが近かった時期かもしれない。前作はライヴ感をパッケージすることをめざしたけど、今回のほうは自分たちのルーツに寄ってて、〈作品として、長く聴けるものを〉っていうのはありました」(福富)。
以前からフェイヴァリットに挙げているスピッツはもちろん、良き兄貴分であるシャムキャッツや、アルバム発表後のホール公演で共演する地元の先輩・くるりの岸田繁らこれまで聴いてきた日本人アーティストの影響も、当然本作には含まれている。
「僕らは頑固に〈日本人は聴きません!〉っていうタイプでは全然なくて、むしろ周りからの影響を受けやすいというか。『Friends Again』以降のシャムキャッツも大きいかもしれないし、くるりも〈ギター・ポップを日本語でやる〉っていうことに関しては大きなヒントだったから、むしろ参考にしすぎないようにしたっていうか(笑)」(福富)。
「私は今回日本語でやるってなって、どういう方向性で歌っていくかを研究するために、いろんな人の曲を聴いてみました。そこから徐々に定めていった感じです」(畳野)。
「リズと青い鳥」からインスパイアされて、福富が〈人と人の距離〉をテーマとしたストーリーを創作。その場面を切り取ったような歌詞を書き、それに畳野が曲を付けるという順番で本作は制作された。美しいハーモニーで物語の幕開けを飾る“Lighthouse Melodies”に続くフォーキーな“Smoke”は、今回最初に書いた日本語曲だという。
「去年ライヴで北海道の苫小牧に行ったときの風景や空気感をどうしても曲にしたくて、帰ってきてすぐに作ったものがあったんですけど、“Smoke”の歌詞が来たとき、それをもう一回作り直したんです。この曲が最初に出来て、方向性がわかったのでみんな安心する感じはありましたね。Homecomingsが表現できるのは、切なさだったり、季節感とか温度感だと思うから、〈少し背中を押してあげる〉くらいの感じがいいと思ったし、歌詞も小説的な部分があるから、〈読み聞かせる〉みたいな、そういう方向性が見えました」(畳野)。
「4人で音を出すにあたっての正解がやっと見えたというか、〈この温度感が自分たちには向いてるんだな〉って、3枚目のアルバムにしてやっとわかった気がします」(福富)。
「ちゃんとそれぞれの人柄が出せたというか、4人の好きなものを集めて、〈4人で作った音楽〉っていう感じが今回はすごくしてます」(畳野)。
気持ちはちゃんと伝わってる
アコギの軽快なストロークと16分で刻むリズムが心地良い“Hull Down”や、開放的な雰囲気の“Parks”など、初期の彼らのスタイルをイメージさせるネオアコ/ギター・ポップが収録されているのは、〈この4人ならでは〉を改めて感じさせる。その一方で、弾き語りの“So Far”は、本作の〈歌〉のイメージを決定付けるナンバーだ。
「ちょっと前までは、アレンジがネオアコっぽくなると〈渋谷系っぽくなっちゃうからやめておこう〉みたいになってたんですけど、今回はそれをやってみようかなって。ただ、リズムのアプローチは他にないものにしたくて、かなり苦労しました」(福富)。
「“Hull Down”は曲を聴いた人から〈サンデイズだね〉って言われて。意識はしてなかったんですけど、でもすごい好きなんで、〈確かに〉って納得しました(笑)。あと〈弾き語りで歌って良い曲〉というところで、“So Far”は完成度の高い曲になったと思います」(畳野)。
ここからアルバムは最後の盛り上がりに向かい、幻想的なインスト“Corridor(to blue hour)”からシームレスに繋がる“Blue Hour”、福田穂那美(ベース)の作曲によるピアノのインスト“Drop”を経て、宮田晴奈(Special Favorite Music)がアレンジを担った生のストリングスが彩りを添える“Whale Living”でクライマックスを迎える。
「“Blue Hour”は今回オケが先にあった唯一の曲で、僕らの持ってる夜っぽい感じと、ヨ・ラ・テンゴの感じを合わせてみるっていうのがテーマでした。歌詞は“Whale Living”が一番大変で、離れ離れの人がいて、手紙は出せなかったけど、〈Whale Living〉っていう場所を介して気持ちはちゃんと伝わってるっていう、そのストーリーをまとめるのにすごく時間がかかりました。でも、そのぶん自分のなかでも大事な曲になったなって」(福富)。
前述の通り、アルバムのラストを飾るのは、ティーンエイジ・ファンクラブをモチーフにしたという“Songbirds”。〈思い出を歌にすることで、それを愛せるようになる〉と歌うこの曲は、「リズと青い鳥」の主題歌であると同時に、『WHALE LIVING』という物語のエンディング・テーマにもなっている。こうした仕掛けは、〈音楽〉と〈映画〉の二軸で活動してきたHomecomingsならではのものだと言えよう。
Homecomingsが参加した作品を一部紹介。
Homecomingsの作品。