「憧れ」は自分が手にしていないものに対してしか生まれ得ません。「テーマーソローテーマ」という円周の構造を持つこの4人の若者の音楽には、顕著にその憧憬が表れています。しかしそれはジャズの文脈だけでは消化できないのもまた特徴です。リズムにはヒップホップが根付き、音の響きはポストロック以降のもの。(精神性としての)ジャズが失われた地平で育った世代が、他の音楽を経由してジャズへと帰結していく̶̶生まれながらの異邦人である彼らは、長い旅路の末に自身の「ジャズ」を獲得しました。
彼らへの賞賛(そして他の現代ジャズへの嫌疑感)が綴られた文章をたまたま何処かで拝見したのですが、そこには「音楽は新しければ良いわけじゃない」とあり、僕は思わず笑ってしまいました。なるほど、この音楽は確かにそう聴こえてもおかしくはありません。しかし残念ながら、それは大ハズレです。聴き手にその異質さを意識させず「古き良きもの」と「錯覚」させたこと。これは音楽家の高尚な知恵の勝利と言えましょう。
彼らの名には即興(ad-lib)が刻み込まれています。あたかも「僕の名に刻まれたジャズを感じてくれ」と語るかのように。「俺の音楽をジャズとは呼ぶな」と語ったマイルスと明らかに相反する価値観です。それは彼らの純粋な憧憬のかたちであり、同時に自身の存在証明でもあります。だからこそ僕には、綴りが違うとは言え、「lib」が「live」を示しているように思えて仕方がありません。生命への欲求、喚起。その瑞々しい音楽は、彼らが抱える焦燥をも僕の中に焼き付けたのでした。
異邦人の白昼夢の中で生まれた儚くも美しい音楽は、切り刻まれながら割れることなく宙を漂うあの風船と共に、じわりじわりとこの世界に近づいています。あの風船を、あなたはご存知でしょうか。ではその片隅に、実は次のように書き込まれていることは?
「音楽を見破り、発見せよ」。
LIVE INFORMATION
〈Libstems 『Daydream Sounds』 1st Album Release Party〉
日程:8/31(日)18:00開場 19:30開演
出演:Libstems:
和田陽介(g)沢田俊祐(pf) 古木佳祐(b) 永山洋輔(ds)
会場:中目黒 楽屋