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細野晴臣、曽我部恵一、夏目知幸……工藤将也の音楽家系図

――でも〈音楽なら生意気が許される〉という思いを持てるのは強いですね。

工藤「生意気なものが許されなかったら終わりじゃないですか。馴れ合いになっちゃうし。大人が勝つのは気にくわないですよ。だから音楽はいいんですよ。何やってもいいし、嫌われてもいいから」

須藤「僕が工藤くんと初めて会ったとき3時間くらい話して、すごくおもしろかったんですよ。当時まだ19歳だったし、本当に少年っぽい感じがまだあったけど、その一方で〈さだまさしが好きだ〉って熱弁する時間帯もあったり。そのとき工藤くんが自分にとっての音楽的な家系図みたいな話をしてくれたんですよ。おじいちゃんが細野晴臣、お父さんが曽我部恵一、おじさんに坂本慎太郎、すごくセンスのいいお兄ちゃんとして夏目(知幸、シャムキャッツ)くんがいる、みたいな(笑)」

工藤「家系図の話は僕も結構気に入ってるんです。親近感が湧く存在とか、客観的に自分にどう影響を与えている人かを、それぞれの距離感も考えながら書いたんですよ。学校の先生がスピッツの草野マサムネさんで、英会話教室の先生がマック・デマルコとか。初めて酒を教わった存在はマエケン(前野健太)とか。家系図のなかでの世界ですけど(笑)」

横沢「マンダラですね」

工藤「そうですね」

横沢「僕の中では、マンダラ書けるやつは才能あるということになってます。僕もめっちゃ書くんですよ」

――横沢マンダラはどんなのですか?

横沢「何パターンかあるんですけど、音楽でいうと〈最強のクラスを作る〉みたいなやつですね。右斜め前くらいの席に小山田圭吾くんがいるとか。あいうえお順に並べて、〈か〉の席には川本真琴ちゃんがいる」

工藤「野球チームもできますよね。自分は6番くらいに置いといて(笑)」

須藤「いまも名前が出てましたけど、マック・デマルコに衝撃を受けて宅録を始めたという話も、初めて会ったときにしましたね」

工藤「あれは結構大きかったですね。高校ぐらいのときに〈こういうミュージシャンでいたい〉と思ったんです。マック・デマルコは、彼女を肩車してライブしたり一緒にレコーディングしたりするのも、なんかいい。音楽仲間も1人もいなかったんで、宅録というのを知ったことが孤独を癒してくれたんですよ。〈自分で作ればいいんだ〉って。

その人の曲と同じくらいその人自身の生き方みたいなのが僕には大事なんです。曲がいくらよくても生き方がダメだなと思う人の音楽は聴けない。細野晴臣さんは生き方も大好きだし、全部が好き。マック・デマルコ、前野健太、曽我部恵一……僕が大好きな人たちはみんな暮らしとか普段やってることが尊敬できる。そして曲もいい。それが僕のなかではセットで、なれるとしたら僕もそうなりたい」

マック・デマルコの2013年のライヴ映像
 

――『森の向う側』を聴いて、僕はスカートの澤部くんがパラダイスガラージの豊田さんを好きだというエピソードを思い出したんですよね。工藤さんがあの頃の澤部くんに似てるというわけではないんですけど、そういう影響の受け方の現代版みたいにも感じたんです。

工藤「歌詞の面ではシャムキャッツの夏目さんがすごく好きなんですよ。スピッツの草野さんとか。そういう人たちは群を抜いていい歌詞を書くと思うし、柴田聡子さんの歌詞が圧倒的にいいのは何でなんだろうかと考えたり。僕も探り探りですけど考えてますね」

 

音楽やるのに個性は不要?

――〈才能以降の時代〉という発言がありましたけど、歌詞を書くのにも才能がいりませんか?

工藤「〈個性がある〉とか〈才能がある〉とか言いますけど、僕は自分がないからいろんな人の真似をできると思ってます。みうらじゅんの言葉で〈自分なくし〉ってあるじゃないですか。自分探しじゃなくて自分なくし。僕も〈確かにな、なくていいんだ、間違ってなかったな〉と思います。個性が大事になってくることは、僕のなかではすっごいつまんないんですよ。曲を作るのには才能なんてなくていいんですよ。だから自分で曲を作って出すということが許せる。そもそものハードルが低いんです」

横沢「とはいえ、音楽をやって、シンガー・ソングライターとして自分を見せる行為では、どんだけ無個性だって言ってても自分を見せてるわけじゃないですか。無個性にこだわると、シンガー・ソングライターとしてのモチヴェーションが湧かない気がするんですけど」

工藤「(モチヴェーションは)結構二の次ですね。僕にとっては自己療養というか、曲を作るのが好きなだけなんで、そこに逃げられるというか」

横沢「曲を作るということ自体が自分のなかからじゃない、ということですか? 外からやって来るという感じなのかな?」

工藤「そうですね。でも、生まれつきみんなに個性はあるんですよ。他人だし、別な暮らしがあるし。でも、僕は個性ってそういう意味合いでしかないと思ってるんです。僕の人生体験としても僕なりに個性はあるんですよ。でも、それを自分で規定する必要はないと思うんです。だからこそひらけたものができる。同じ意味合いでみんな個性的だし、みんな無個性。そこで才能があるふりとかをしちゃうと理解されない気がするんです。僕はポップな音楽が作りたいし、こう見えても主婦とかに聴かれたいと思ってるので」