鬱屈した思いを解き放ち、生きる力を与えてくれるロックンロールの素晴らしさを改めて実感するはず

「夜は明けるし、雨は止む。終わらない青春を鳴らしに来ました。ハンブレッダーズです、よろしく!」

これは2019年3月23日、初のワンマンツアーの初日(東京・渋谷CLUB QUATTRO)でムツムロ アキラ(ヴォーカル、ギター)が叫んだ言葉だ。〈青春〉という言葉に象徴される、切なさ、悲しさ、悔しさ、そして、どこかにあるはずの希望がこんがらがった状態をリアルで生々しい歌に昇華し、それを求めてやまないリスナーとダイレクトにつながる。筆者はこの夜、文字通り汗と涙にまみれたステージを直視しながら、〈これこそロックンロールの本質だ〉と実感したのだった。

ムツムロ、でらし(ベース、コーラス)、木島(ドラムス)による大阪在住のロックバンド、ハンブレッダーズ。〈ネバーエンディング思春期〉を掲げるこのバンドが、ファースト・フル・アルバム『ユースレスマシン』とともにメジャーシーンに進出する。表題曲“ユースレスマシン”を含む新曲10曲、さらに人気曲“逃飛行”の再録ヴァージョンを収めた本作によって彼らは、〈終わらない青春〉を濃密に注ぎ込んだ楽曲によって、さらに多くのリスナーを魅了することになるだろう。

ハンブレッダーズ ユースレスマシン Toy's Factory(2020)

まずは簡単にこれまでのキャリアを紹介しておきたい。高校の文化祭をきっかけに結成され、大学進学後、地元・大阪のライブハウスを中心に活動を継続。青春の甘酸っぱさ、喜怒哀楽が混ざり合った状態を映し出す歌詞、ドラマティックにしてポップなメロディライン、そして、歌を際立たせるバンド・サウンドによって、関西のバンドシーンで頭角を現す。2017年〈RO JACK〉入賞、さらに〈出れんの!? サマソニ!?〉オーディションを勝ち抜き〈SUMMER SONIC 2017〉出演した後、2018年1月にファースト・アルバム『純異性交遊』をリリース。同年3月に初ワンマン・ライブを大阪で開催し、11月には早くもセカンド・アルバム『イマジナリー・ノンフィクション』を発表した。2019年に開催した初の全国ワンマン・ツアー、8月の東名阪クアトロ対バンツアーが全会場ソールドアウトするなど、ライブの規模も加速度的に拡大。そして2020年、満を持してメジャーデビューを果たすというわけだ。

ハンブレッダーズが急速に支持を獲得した最大の理由は、ムツムロが紡ぎ出す歌の強さだ。10年代のバンドシーンは、夏フェスの隆盛に伴い、〈いかにオーディエンスを盛り上げ、踊らせるか〉を意識したバンドが数多く登場した。その結果、4つ打ちのダンスロックが大きな潮流となったわけだが、一方で歌の良さで勝負できるバンドが少なくなったのも事実。そこに登場したのが、生々しい感情を注ぎ込んだ歌を前面に押し出したハンブレッダーズだったのだ。実際、彼らのライブでは観客がじっくりと歌に耳を傾け、拳を上げながら大きな声で歌い上げる場面が続く。そう、リスナーの心を揺らし、引き付ける歌詞とメロディこそが、このバンドの最大の武器なのだと思う。

アルバム『ユースレスマシン』は、タイトル曲“ユースレスマシン”から始まる。空間を切り裂く疾走感に溢れたビート、鋭利な響きをたたえたギターフレーズとともに描かれるのは、〈心の奥がざらつくような一瞬〉の美しさ、儚さ。ロックンロールは人生の役に立たないし、必要もない。しかし、ロックンロールがもたらす興奮、心を揺さぶる感覚は、必ずその人の世界を変えるはずだ――“ユースレスマシン”は現時点におけるハンブレッダーズの決意表明と言っていい。

このバンドらしい〈青春〉の風景を切り取った楽曲もたっぷり。退屈ばっかりの日々に〈君〉が現れ、〈夢中になれるものに出会ってしまった!〉という衝撃――それは恋愛に限らず、〈大好きなもの〉全てを表わしている――をストレートに描いたアッパー・チューン“見開きページ”。真夏のブランコを舞台に、大切な人との切ない別れを綴ったエモーショナルなミディアム・チューン“ブランコに揺られて”。あらゆる感情が繊細の揺れ動く季節を映し出す楽曲は、思春期ど真ん中の人たちはもちろん、いまは大人になったリスナーにも強く訴求するはずだ。

多彩なバンド・サウンド、幅広い音楽性を含んだアレンジメントも本作の魅力だ。50年代風のオーセンティックなロックンロールを想起させる“ユアペース”。オールディーズのような雰囲気のメロディ、キャッチーで可愛らしいギターフレーズがひとつになった“マイラブリーボアダム”。心地よいファンクネスをたたえたベース、切れ味のいいギターカッティング、ダンサブルなリズムが絡み合う“SUMMER PLANNING”。生の感情をぶちまけるのではなく、豊かな表現力に裏打ちされたサウンドやアレンジによって、幅広い層のリスナーが楽しめるポップスに結びつけているところも、このバンドの良さだろう。

3月からはアルバムのリリース・ツアー〈“この先の人生に必要がない”ワンマンツアー〉がスタート。人生の役に立たない(はずの)ロックンロールがライブという場所で輝きを放ち、その場にいるオーディエンスの心と体を解放しまくる……そんな光景が日本全国で繰り広げられると想像するだけで、意味もなくワクワクしてしまうのは筆者だけではないだろう。アルバム『ユースレスマシン』から始まるハンブレッダーズの新しい物語にも大いに期待したい。そこで我々は、鬱屈した思いを解き放ち、生きる力を与えてくれるロックンロールの素晴らしさを改めて実感することになるはずだ。