NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の音楽に込めたハリウッド作曲家の想い
「メインテーマの作曲の際には、明智光秀と織田信長を中心に渦巻いた争い、緊迫した刹那、そしてその時代の人達が切望したであろう希望と平和への願いなどに思いを馳せました」と語るのは『麒麟がくる』で音楽を担うジョン・グラムだ。ハリウッドと日本の両方で優れた仕事を披露するベテランの劇伴作曲家は、どのような思いで大河ドラマに挑んでいるのだろうか。
「日本の皆さんにとって大河ドラマが非常に特別な存在であることはよく理解しております。愛、子どもたち、家族が登場するシーンでは、私自身の家族や友人の事を思い浮べ、《美濃の里 Mino, My Home》という楽曲を作った時には、WEBで岐阜の風景の写真を探し、私が生まれ育ったヴァージニアに思いを馳せて作曲しました。『麒麟』の音楽はロサンゼルスで作っておりますが、様々な思いに寄り添っているのです」
たとえ『麒麟』のサウンドが新しく感じられたとしても、彼が重視したのは普遍的な感情であった。もちろん、大河ドラマの音楽として日本人が真っ先にイメージするような骨太の旋律も随所で登場し、ドラマに厚みを加えている。そして大河ドラマとしては珍しい響きがちらほら表れ、印象に残る。
「例えばメインテーマの中間部、美しいチェロソロが歌う部分は麒麟が現れるイメージなのです。劇中の幻想的な箇所では、魔法的な音色を持つツィンバロン、ハンマー・ダルシマー、リラ、マンドロンチェロを頻繁に登場させています。また、特定の文化色と直接的なイメージの結びつきが少ない楽器の使用も意識していますね」
もうひとつ、非常に大きなインパクトを残すのが、吉田鋼太郎演じる松永久秀の音楽だ。
「今作品の中では異色となるバリトンサックスでアプローチしてみました。サックス奏者の平子健介氏さんに、バリトン、テナー、アルトサックスを演奏して頂き、トランペットとトロンボーンはナッシュビルで収録しています。国際的な要素が融合された松永久秀らしいエキゾチックなな曲に仕上がりました」
ドラマパート終了後に史実の場所に訪れる『紀行』コーナーなどでは、堀澤麻衣子の歌声をフィーチャリング。「熟成したシャルドネのよう」とグラムが喩えるのも納得の美しく心揺さぶられる声で、オアシスのように人々を癒す。
「これほどの大作に関わると、作品という概念は個人やチームのモノではなく、その作品を愛してくれるオーディエンスのモノであると感じます」との言葉通り、全力で大河ファンに奉仕しようとしてくれているグラムの音楽に、是非もっとご注目を!