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始まりは911、米同時多発テロだった

遡ること2001年9月11日。アートスクールを卒業後、アニメの仕事のためにマンハッタン行きのフェリーに乗船していたジェラルド・ウェイ(ヴォーカル)。彼が目撃したのは、ワールドトレードセンターに飛行機2機が突き刺さっている、まるで映画の1シーンのような信じられない光景だった。そして、その後タワーの崩落やそこから地面へ落下する人々の姿を目の当たりにしたことで、彼は人生を音楽に捧げると誓ったという。

早速、当時のドラマー、マット・ペリシアーに声をかけ、2人は“Skylines And Turnstiles”(2002年作『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』収録曲)を作った。この曲の〈こんなものを見た後で/イノセンスを取り戻すことはできるのか〉 という歌詞には、ジェラルドが当時受けた絶望のほどを窺い知ることができる。

“Skylines And Turnstyles”のデモ

 

多様な音楽志向を反映しつつ、独自の死生観を表現

ジェラルドとマットの2人で始まったマイケミは、ギタリストのレイ・トロ、ジェラルドの弟でありベーシストのマイキー・ウェイが集まって本格的に始動。対バンしたペンシー・プレップのフランク・アイエロ(ギター)を加えた5人体制でバンドが整った。その後、ポスト・ハードコア・バンド、サーズデイのジェフ・リックリーが参画していたレーベル、アイボール・レコーズから、ジェフのプロデュースでアルバムを録音。バンド結成から僅か3ヶ月で初作『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』をリリースした。

MY CHEMICAL ROMANCE 『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』 Eyeball(2002)

 彼らの音楽嗜好はそれぞれ異なり、アイアン・メイデン、ミスフィッツ、ブラック・フラッグ、メタリカ、メガデス、スレイヤー、レッド・ツェッペリン、クイーン、デヴィッド・ボウイ、スミス/モリッシーなどさまざまなアーティストから影響を受けている。その多様性は、作品を追うごとに花開いて行くのだが、すでに『I Brought〜』でもホラーパンクやメタル、さらに映画やミュージカルのようなコンセプチュアルな要素もあり、荒削りながらも唯一無二の存在感を示していた。復活後も同作からの楽曲を披露しているので、ぜひチェックしてもらいたい。

2006年作『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』収録曲”Our Lady of Sorrows”

そして、そんなファースト・アルバムから、彼らのメッセージは一貫している。それは、死生観に関わるものだ。マイケミの作品には、さまざまな形で人生の終わりに向けた思索が込められている。そして、そこには911だけではなく、メンバーの出身地であるニュージャージー州ベルビルが、犯罪の多発する場所であることも関係しているように思える。彼らの音楽によって人生を救われたと語るファンは多いが、彼ら自身もマイケミによって人生が救われたことを知ることができるのが、メンバーのインタビューや初期の貴重な映像満載のライブCD&ドキュメンタリーDVD作品『Life On The Murder Scene』(2006年)だ。