ぶれない詩人マーシーとダダイズムな風刺画家のコラボ絵本

真島昌利,Botchy-Botchy 青空 現代書館(2019)

 旅から戻ると、一冊の絵本が届いていた。タイトルは「青空」。ザ・ブルーハーツのマーシーこと真島昌利の歌詞に、フランス人イラストレーターBotchy-Botchyが絵をつけた。藍色の表紙には手描きの日本語タイトル。頁をめくると、藍から墨色に変わり……思わず〈詞〉をつぶやく。

 「ブラウン管の向こう側 カッコつけた騎兵隊がインディアンを撃ち倒した」

 並んだモニターの向こう側には銃を持ち馬に乗る骸骨顔の男。その前には缶蹴りするランドセル少年。次の頁には歌詞の絵解きではない暗黒世界が展開する。脳裏には理不尽な事件記事が次々と浮かぶ。

 「神さまにワイロを贈り 天国のパスポートをねだるなんて本気なのか?」

 マーシーの唯物論的視点は予見していたのだろうか。世間に跋扈する新興宗教も、世界の宗教戦争も。

 「こんなはずじゃなかっただろ? 歴史が僕を問いつめる まぶしいほど青い空の真下で」

 ザ・ブルーハーツが“青空”を発表したのは、1988年。ベルリンの壁が崩壊する前の年。あの頃の空の色を想う。今、世界の民族紛争は激化し、地球環境も悪化、金権政治は横行し、空には戦闘機が増えた。

 「不寛容な時代の今こそマーシーの言葉を、世の中の人に伝えたい」と現代書館の編集者は思ったそうだ。

 “青空”が初リリースされたアルバム『Train Train』の歌詞カードイラストは風刺画のような雰囲気だったことから、カリカチュアもDJもこなすBotchy-Botchyに挿絵を依頼。濃厚なコラボ絵本が出来上がった。

 心やさしくまじめなマーシーの歌詞に寄り添う挿絵は、おそろしくシュールなエログロナンセンスで度肝をぬかれるが、ひょっとしてバタイユの小説「青空」にもなぞらえているのではないかと思い深読みする。いつの世も反戦の芸術文学には平和ボケに喝を入れるダダイズム・パンチが求められるのかもしれない。

 あとがきに記された吉本ばななのメッセージ「口ずさむ」には、マーシーのやさしさと変わらないまなざしやたたずまいへの賛辞と共感があふれている。最後の奥付のページに、中原中也のような帽子をかぶったランドセル少年が後ろ姿で描かれているのが印象的だ。ぶれない詩人マーシーに敬意を評したい。