
セントチヒロ・チッチが多彩な嗜好と溢れる人間味を詰め込んだ、スパイシーでカラフルな音世界――大物ルーキーがいよいよ待望の初アルバムをリリース!
ひとりで生きていかない
「セントチヒロ・チッチとしてBiSHで生きてきたから、私はいまこうして表現ができているので、まったく関係ない名前にはしたくなかったんです。だけど〈セントチヒロ・チッチ〉名義のままだと新しいことに自分が挑戦できない気がしてCENTという名前にしました。CENTって〈100分の1〉とか〈小さな〉っていう意味もあって、今回の『PER→CENT→AGE』みたいにいろんな言葉が生まれるし、言葉を送る(sent)気持ちにもなれるワードだなと思って。もしかしたらCENTは今後バンドになるかもしれないし、違う形の何かになるかもしれない。だから、どんな形にも変形できるCENTになりたかったんですよ」。
BiSH解散を経て、先日は〈加藤千尋〉名義での俳優デビューも発表したセントチヒロ・チッチ。そんな彼女の音楽プロジェクトが、昨夏の“向日葵”でお目見えし、“すてきな予感”を経て、このたび初のアルバム『PER→CENT→AGE』を届けたCENTだ。近年はTHIS IS JAPANやBIMの作品に参加したり、突然少年のMVを監督したり、「スパイストラベラー」を通じて櫻井誠(Dragon Ash)らとSPiCE TRAVELERSを結成するなど、持ち前の社交性と好奇心で多彩なアーティストと独自に交友関係を広げてきた彼女だが、自身のソロ始動については最後まで熟考していたという。
「そもそも解散前に何かを始めるつもりは最初なくて、BiSHを全うするまではBiSHで生きていくっていう選択肢もありました。私の頑固な性格は自分でわかってるから、別のことに気持ちを向けたら自分に嫌気が差すんじゃないかと思って。だけど、5人が自分の生きていく方向に目を向けているなかで、これから先も音楽を続けたいのに、変に出し惜しみして〈BiSHを全うしてる自分〉を頑固に守ってるのってダサいなって思えてきて。BiSHが終わってからスタートするのもかっこいいけど、いま溢れそうなものを表現しないことには何も始まらないし、自分がどう生きていくかを自分で決めることが大事だと思って」。
誰よりもBiSHの活動にこだわってきた想いは言うまでもないが、舞台裏では自己表現への試行錯誤も始まっていた。
「曲作りはコロナ禍の前、いつか一人で動き出すための準備をしようって渡辺(淳之介:WACK代表)さんから提案してもらって、何にも決まってない頃から始めてました。1か月に10曲提出するっていうノルマは全然守れなかったけど(笑)。ギターもまったく弾けなかったのが、BiSHが全員コロナで1か月休んだ時期に急にコードチェンジとかちゃんとできるようになって、だんだん楽しくなって。そこからストックを貯めてって、2年くらい準備段階をやってました。今回アルバムに入ったものは、その頃に作ったお気に入りの曲たちです。“向日葵”や“夕焼けBabyblue”はギターから始めて、ちょっとずつLogicとかも教えてもらいながら色付けして、弾けないギターは友達に口頭で伝えて入れてもらったり、わかんないベースとかドラムのパターンも友達に相談したりして。〈ひとりで生きていかない〉って決めてるんですよ、私。だから、たくさん人に頼るし、人に助けられて生きるのって何も恥ずかしくないし、その時の私は音楽を作ることに対してはまっさらだったので、いろんなことを学んで、教えてもらいながら、自分も成長して曲を作っていくっていう感じでした」。
新しい一歩目のアルバム
そうやって曲作りを進め、多忙な合間を縫って6月半ばに録り終えたという『PER→CENT→AGE』では、大半をチッチ自身が作詞/作曲。編曲はkoyabin(THIS IS JAPAN)とJ. ogが主に担当し、ギターには馬場庫太郎(NENGU)、ベースにカワノアキ(ar syura)、ドラムスにRyosuke Take(yhojin)、てらだ(FENNEC FENNEC/carpool)といった仲間たちが曲ごとに演奏の核を担う。なかでもクレジット的に特に目を引くのは、敬愛する峯田和伸(銀杏BOYZ)、そしてマーシーこと真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)の楽曲提供だ。
「新しい一歩目のアルバムには自分のルーツを詰め込みたくて、峯田さんとマーシーさんに頼んだのは、〈この人たちの音楽があったから私はいまここにいて、新しい表現を一緒にやってみたいと思ったんです〉っていう意思表示ですね」。
峯田が作曲した“決心”は、2018年のソロ・デビュー企画で“夜王子と月の姫”をカヴァーし、以降も対バンやMV共演などを通じて交流を深めてきた彼女にとって、まさに念願のものだろう。杉森ジャック(THIS IS JAPAN)によるアレンジの疾走感も青春モードに拍車をかける。
「〈夜王子〉のときは、新しく私が歌うからこそ銀杏BOYZを通ってない人たちにも聴いてもらえるように生まれ変わらせてほしいっていう思いでリーガルリリーに頼んで。今回は峯田さんが一緒に新しいCENTとしての道を作ってくれたから、銀杏BOYZを愛してる人にアレンジしてほしくて、杉森さんにお願いしたら凄くいいものになりました。歌詞の〈君〉っていうのは銀杏BOYZの音楽のことで、〈自分が学生時代にこの音楽に救ってもらって、いまこうやって表現してるんだよ〉って伝えたくって素直に書きました」。
一方で真島による“あそぼーよ”は童心に帰ったマーシー節が微笑ましい一曲で、富澤タク(グループ魂)の編曲がノスタルジックな夏の匂いを掻き立ててくる。
「〈みんなのうた〉みたいですよね。マーシーさんとはご挨拶したこともなくて私が一方的にライヴを観ていただけなんですけど、お願いしたい人を考えるなかで名前を挙げたら実現してもらえました。コロナ禍でブルーハーツの“青空”をすごく聴いていて、その頃アーティストの人たちの〈歌つなぎ〉みたいなのが回ってきた時に“青空”を歌ったんですよ。それで今回いただいた歌詞に〈何もないから青空がある〉ってあったのが、人生が繋がった感じがして嬉しかった。マーシーさんはもちろんそんなこと知らないと思うんですけど(笑)。少年みたいな音楽を作ってもらえて、何か可愛いです」。
そうした大先輩たちの助力がある一方、おかもとえみが同世代感覚でガーリーな“ナポレオーネ通りにて”を提供しているのもポイントだ。彼女は内省的でチルなラップ調の“紙ヒコーキと晴れのちコーヒー”をチッチと共作してもいる。
「えみそんは私の意図をフラットに汲み取って、会話するように音楽を作ってくれるお姉ちゃんですね。“ナポレオーネ通りにて”は、大好きなPUFFYみたいな、女の子がうまく歌おうとしてない感じのワクワクするような曲をやりたくてお願いしたら、最高なのを作ってくれました。“紙ヒコーキと晴れのちコーヒー”はもともと違う雰囲気で途中まで出来ていたのを、〈女友達に話してるような音楽が作りたいんだよね〉って相談して色付けしてもらったっていう感じで」。
明るい場所へ手を引きたい
他にもオルタナ調の“おとぎばなし”や力強いメッセージをメロディアスに届ける“君へ”、スパイシーで幻惑的な“インマイルームフェス”、重層的なコーラスを纏ってドラマティックに終幕を飾る“:Q”まで楽曲は多彩。それら色とりどりな表現に一本の芯を通すのは彼女自身の前向きな眼差しだ。
「漠然としてるんですけど、必然的に集まってくる曲たちがポジティヴなんですよね。基本的には病んでない人が作ってる音楽というか、曲を作るなかでネガティヴなものができないのが悩みだったんですよ。でも、もうこれが自分の性格だと思ったら、別に無理に作る必要なくね?って思えてきて(笑)。悲しみに寄り添うものっていろんな形があると思うんですけど、私はそこに同じ気持ちで共感するっていうより、太陽みたいに 明るい場所から手を引っ張れるような音楽が作りたいし、おこがましいですけど、自由な世界を教えてあげられるような表現ができたら嬉しいなと思っていて、そういうアルバムができたらいいなっていうのが目標にはありました。結果的には自分のおもちゃ箱みたいなアルバムになって、子どものときのおもちゃ箱って、いろんなものが入ってるじゃないですか。自分でも日によってお気に入りが変わるし、遊びに来た友達が箱の中を見たらそれぞれにお気に入りがあって、それを貸してあげたりして。だから聴く人によってお気に入りがバラけるアルバムだと思うし、それぞれの曲に顔があって、ワクワクしたり、ハッピーな気持ちになったり、生きなきゃなって思うものだったり、それぞれの受け取り方ができるような箱になって、それが人間らしいかなって。CENTになったけど、セントチヒロ・チッチはそのまま生き続けてて、たぶんそれが伝わるアルバムになったんじゃないかなと思います」。
多彩な表情の彼女がコラージュされたカラフルなジャケが物語るように、チッチらしい人間味に溢れた上々のファースト・アルバム。7月には〈フジロック〉の〈苗場食堂〉で初めて観客を前にしたパフォーマンスを披露し、この8月は〈RISING SUN〉や〈MONSTER baSH〉にも出演。CENTの新しい歩みはここから始まる。
「自分がいままで歩んできたものをルーキーとして、また1からやっていきたいっていう気持ちです。まず9月に初めてのワンマンが決まったんですけど、今後はツアーも回りたいし、もっと自由に友達のバンドとイベントを組んだり、ツーマンのツアーもできたらいいな。あと、BiSHでは行けなかった海外でライヴしてみたいっていう夢がありますね」。
9月に開催される初の有観客ワンマンは〈Unknown Possibilities〉と題されている。CENTという名前のついた、未知の可能性。その先途を私たちは見届けることができる。
セントチヒロ・チッチの著書「いままでも これからも」(KADOKAWA)
『PER→CENT→AGE』に参加した面々の配信作を紹介。
左から、ar syuraの2022年作『dyed Bordeaux』(ar syura)、FENNEC FENNECの2023年のシングル“KEYS”(FENNEC FENNEC)、yhojinの2023年のシングル“Coco”(fly'n cry)
『PER→CENT→AGE』に参加した面々の関連作品を一部紹介。
左から、NENGUの2017年作『Pongyaron』(NENGU)、the dadadadysの2022年作『Do Wah dadadady』(UKプロジェクト)、グループ魂の2020年作『神々のアルバム』、POLYSICSの2021年のシングル“走れ!”(共にキューン)
CENTと『PER→CENT→AGE』に直結するさまざまなサブテキストを紹介!
前年の企画〈WACK総選挙〉で得票1/2位だった両名がソロ・デビューを飾ったスプリット・シングル。チッチが選んだのはGOING STEADY~銀杏BOYZのカヴァーで、リーガルリリーの演奏が幻想的な世界を描き出す。
12か月連続シングルの一環でCENTの初音源“向日葵”の翌月に出たこちらには、チッチが作詞/作曲した最初で最後のBiSH曲“YOUTH”をカップリング収録。〈終わらない歌を歌いたいんだ〉の冒頭から青春が駆け抜ける。
たびたびチッチが敬意を表明してきた峯田和伸の世界。BiSHの“ろっくんろおるのかみさま”では〈夢で逢えたら〉との引用もあったが、ついに峯田の楽曲提供が実現したCENTの“決心”では〈夢で逢うより〉という一節が。
90年代オルタナの色濃い4人組バンドの現時点での最新シングル。カップリングの“KARAGARA”ではチッチが客演して新鮮なコラボを聴かせる。ここでの縁を契機にkoyabinと杉森ジャックはCENTの編曲や演奏を担当した。
母の影響で幼い頃からブルーハーツを聴いていたというチッチ。そんなルーツにある真島昌利がCENTに書き下ろした“あそぼーよ”は、往年の“ホームラン”から近年の“大空がある”にまで通じるマーシーならではの世界が眩しい。
WACK関連ではKiSS KiSSへの楽曲提供も記憶に新しい彼女。CENTにはフレンズでの快活さにも通じる“ナポレオーネ通りにて”を提供し、共作したチルな日常系の“紙ヒコーキと晴れのちコーヒー”でも主役をサポートしている。






