エド・シーランやジェイク・ゴスリングらUKポップ界の売れっ子とコラボ、エレクトロニックなビートも織り込んだ繊細なサウンド・テクスチャーにクリアに澄み渡る歌声が光る
人生が変わるきっかけは得てして、予期せぬかたちで、予期せぬ時に、やって来る。クリスティーナ・ペリーの場合、それは故郷のフィラデルフィアからLAに移り住み、ウェイトレスとして生計を立てながら音楽活動をしていた2010年の夏に起きた。彼女が綴った美しいバラード“Jar Of Hearts”の音源が、親友を介してリアリティーTV番組「So You Think You Can Dance」の振付師の手に渡り、番組内で使われたところ、全米の視聴者の心を揺さぶってすぐさまチャートを駆け上り、やがて人気は世界中に広まったのだ。以来、毎年その親友や振付師に花束とシャンパンを贈っているというクリスティーナは、次のように感慨深げに話す。
「時を遡って4年前の私に、〈ダンス・リアリティー番組がきっかけであなたの人生は変わる〉と教えてあげたとしても、絶対に信じなかったでしょうね。人生がどう変わるか誰も予測できないんだから、何かオファーされたら常に〈イエス〉と言うべきなのよ。あの時〈ノー〉と言っていたら、私はいまもウェイトレスのままで、人生でいちばんマジカルな事件を体験できなかったわ」。
その後、大手レーベルと契約し、急いで作り上げたファースト・アルバム『Lovestrong』(2011年)を大ヒットさせた彼女。US本国では今年4月に登場した待望のセカンド・アルバム『Head Or Heart』も前作と同じ全米4位を獲得し、安定した人気を見せつけたが、本人のモードはあきらかに違う。『Lovestrong』でのクリスティーナは“Jar Of Hearts”が好例で、赤裸々に心象風景を描く失恋ソングのスペシャリストであり、オーガニックなバンド・アンサンブルを志向していた。他方の『Head Or Heart』では、ジェイク・ゴスリングをはじめとするUKポップ界の売れっ子たちとコラボ。エレクトロニックなビートも織り込んだ繊細なサウンド・テクスチャーに、あのクリアに澄み渡る歌声を乗せている。それに、「自分に起きたことはすべて曲に綴って、悪いことも良いことも消化する」という彼女は引き続き実体験主義を貫いているものの、感情の振り幅は広く、なかでもエド・シーランをゲストに迎えた“Be My Forever”では、底抜けにハッピーな言葉で聴き手を驚かせる。
「前作は絶望のアルバム。どれもひとりの男性に関する曲だったけど、今回は他にも幅広い感情を網羅していて、ソングライターとしての視野が広がったわ。私自身に関する曲が4つあって〈自分を愛そう〉と訴えているし、凄くハッピーな曲もあるし、こんなにハッピーな曲が生まれたことは私にも驚きだった。自分に合わないんじゃないかと思ったくらいで、共作したジェイミー・スコットが〈これも君の曲じゃないか〉と説得してくれたのよ。前作を作った時は23歳でいまは27歳だから、きっと成長したのね(笑)」。
アップダウンが激しい理由は、アルバムのテーマにもありそうだ。表題の『Head Or Heart』を〈頭と心〉あるいは〈理性と感情〉と置き換えることもできるが、聞けば彼女はここへきて、恋愛において自分がいつも頭か心か、どちらかに偏った判断をして道を誤ってきたことに気付いたのだとか。そこで、頭の声と心の声を曲に綴って対比させ、自分の弱点を突き詰めたという。
「私は26歳になるまで常に誰かと恋愛関係にあったんだけど、最近初めて独りになって、恋愛に手こずる原因は相手じゃなくて自分にあるかもしれないと悟ったの。そう閃いた瞬間にアルバム制作が始まったわ。しばらく恋愛はお休みしてアルバムに愛情とエネルギーをありったけ注ぎ、学ぶことに徹しようと決めたの。自分を信じることができるように。自分を信じられるようになったら、頭の声と心の声のどちらかを選ぶ必要はなくなると思う。その時にはふたつの声が一致するはずだから」。
PROFILE/クリスティーナ・ペリー
86年生まれのシンガー・ソングライター。ペリー・ファレルやシャインダウンのギタリストとして活動する実兄、ニック・ペリーの影響で16歳からギターを始める。21歳の時にLAへ移り、ほどなくして入籍。結婚後はフロリダでPV製作の職に就くも、わずか18か月で離婚する。ふたたびLAに戻り、ウェイトレスをしながら音楽活動を本格化。2010年に“Jar Of Hearts”がTV番組「So You Think You Can Dance」で使われて話題を呼び、アトランティックと契約を結ぶ。2011年にファースト・アルバム『Lovestrong』を発表。2012年のホリデー盤『A Very Merry Perri Christmas』を挿み、このたびニュー・アルバム『Head Or Heart』(Atlantic/ワーナー)をリリースしたばかり。