コラム

志村けん追悼――老若男女の笑いの琴線を爪弾き、揺らし、引っ掻いて風のように消えた人

Exotic Grammar Vol.68-1

キリンビール「氷結」CMより

老若男女の笑いの琴線を爪弾き、揺らし、引っ掻いて風のように消えた人。

 Albums, Remember Those? Albums Still matter. Like books and black lives, albums still matter. 5年前の第57回グラミー賞、〈最優秀アルバム賞〉のスピーチで〈殿下〉プリンスが遺した言葉だ。一方、アルバムの魅力を「LPには曲の〈構成〉がある」「A面とB面があったのもよかった」「そういう上手な構成に出会うのもレコードを聴く大きな楽しみだった」と書き残したのは志村けん。「バカ殿様」の白塗りを落とした素顔の彼はアナログ盤を愛し、音楽誌にレコード評を寄せるほどのソウル・マニアだった。が、「まあ、そのへんはコント番組の構成も同じ」「どうやってひとつの番組の流れをつくるかに、僕はいつもすごくこだわっている」とお笑い観で文を締めるのが、彼の真骨頂だ。

 「レコード漁り? ここ1、2年は疎かですね。あまりに新譜の数が多すぎて……流れが速くて、凝ってまで聴くのが無くなっちゃたんですよ。ここんトコ、夜はもっぱら吉幾三さんの演歌を聴いてます。ベスト盤が出たし、今の季節に合うんでね。田代(まさし)クンと遭ってすぐの頃はよく、アレが好き・コレが好きなんて言い合ったもんだけど…今は教わるほうだね。田代クンはまだ若いから、新しいのを聴いてて、〈この曲、あの場面で流すといいよ〉なんて教えてくれる」。

 フジテレビが台場移転する凡そ4年目(28年前の1993年初頭)、写真週刊誌が組んだ〈志村けんの世界〉という2色8頁企画の為に取材した折のコメントだ。当時42才の彼は芸人生活25周年、2本の冠番組「だいじょうぶだぁ」「バカ殿様」も絶好調で……音楽を聴くのは「せいぜい寝る前にちょっとぐらい」の繁忙期を迎えていた。確か河田町本社の喫茶室にて、30分程度のQ&Aが許されての邂逅だったと記憶している。

 当時はビデオ・ソフトも続々発売されだし、人一倍勉強家の彼は「観れば深夜の3時、4時」。最近の興奮作品は映画「ゆりかごを揺らす手」だと語ってから、「それとここんトコ、ずぅーっと凝って観ているのが倉本聰さんの『北の国から』。ビデオで8巻、それからスペシャル版が2本、ぜ~んぶ観ましたよ。ハマっちゃいましたよ、どっぷりと。ビデオで買い揃えたんだけど、レーザーディスク版も出たので、あれはロケが多いから綺麗だろうと、そちらも全部揃えた(笑)」。

 倉本作品は以前から好きなのか、そう訊いてみると、「っていうよりも『北の国から』が好きでね。前にも観てるんだけど、もう一回観直すとまた、カメラワークや話の持って行き方とか、登場人物の絡み方がね、巧いなぁと思って。ホント、よく計算されてるよね」。

 彼のドリフ入り以降、「生活っぽいコントが増えた」と言われるのも納得できる鑑賞眼/興味の持ち様と言えるだろう。当時、件の倉本氏が「だいじょうぶだぁ」のコントを書きたがっているとの噂は掴んでいたので、志村本人にぶつけてみた。

 「なんか、そういう話を僕も実際2回ぐらい聞きましたね、フジテレビの人を通じてね。勿体ない話ですけど…もし書いてもらえるんならば、全部のコントではなくてね。その部分は〈倉本聰・作〉と、わざわざ断り書きを入れてもらってね(笑)」。

 話の流れで小津作品は好きか、それも訊いてみた。

 「安二郎も、好きですけどねぇ(笑)。笑いでもやはり、日常的な事が好きですから。日常の事が段々と、最後にはトンデモナイ事になってみたいな…僕はそういうほうが面白いなと思うし。〈そんな奴、いるいる〉とか〈そういう事ってあるよなぁ〉〈なっちゃう、なっちゃう〉とかね。もちろん現実は僕が演るような、あそこまでにはならないわけだけれども(笑)」。

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