アルゼンチンの伝統的なリズムを声とギターでシンプルながら奥深い世界に

 世界有数のワイン産出国アルゼンチン。そのアルゼンチン第2の都市コルドバから届けられたのが、メリー・ムルーア&オラシオ・ブルゴスの『ロブレ・ディエス・アニョス』だ。もともとこのアルバムは、メリーとオラシオのデュオとしての活動が10周年を迎えた2017年に制作されたものである。

 二人が日本で知られるきっかけとなったのは、メリー・ムルーア+オラシオ・ブルゴス・トリオの『acacia』(2014年)。このアルバムはアカシアの森に録音機材を持ち込み、オリジナル曲に加えて、フォルクローレやタンゴなどをフィールド・レコーディングしたものである。また、2008年から2010年にかけて録音されたオラシオの『Celebracion』でも、二人は一緒にフォルクローレの古典的名曲を録音している。ただし、オラシオはこのソロ・アルバムでは、エグベルト・ジスモンチやトム・ジョビン、ラルフ・タウナー、マイク・スターンなどの曲も演奏している。つまり彼は、アルゼンチンの音楽に留まらず、ブラジル音楽やジャズもレパートリーとしているギタリストだ。

MERY MURÚA,HORACIO BURGOS 『ROBLE 10 AÑOS』 大洋レコード(2020)

 『ロブレ・ディエス・アニョス』は、メリーのヴォーカルとオラシオの生ギターのみによるアルバム。二人が出会った07年のその日に初めてデュオとして録音した曲だというサンバ(zamba)の名曲“Zamba Azul”に始まり、アルフレド・アバロスやメルセデス・ソーサなどに歌われてきたやクエカ(cueca)やミロンガ、ボレロ、タンゴなどの曲によって構成されている。中には2009年に作られた曲もあるものの、基本的にはアルゼンチンの古典的名曲集だ。ただし、メリーとオラシオは、えぐみのない歌と洗練されたギターのヴォイシングによって、ヴィンテージ・ワイン級の名曲を現代の空気に触れさせ、豊かな香りをより広げ、酸味や渋みをよりまろやかにしている。2007年または2017年がアルゼンチン・ワインの当たり年だったのかどうか知らないが、『ロブレ・ディエス・アニョス』のほど良い熟成感は格別だ。