2007年のチャイコフスキー国際コンクール優勝から13年、神尾真由子が驚くほどフレッシュなバッハ演奏を聴かせてくれる。彼女はこの〈聖典〉を前にして構えることなく、自ら感じたままを率直に表現している。彼女の使用楽器、ストラディヴァリウス“ルビノフ”が発する鮮烈な音色、軽やかで躍動的なリズム、早めのテンポによる颯爽とした進行は、移り変わる音楽の情景を多彩に描き出してゆく。しかも鳴っている全ての音と表情、随所で織り込まれる装飾音が、類い稀なセンスとテクニックにより極め尽くされているのが凄い。聴いていて、シャープな書き味のペンを手にしたような爽快感を覚える1枚だ。