空間にしたたるような響きのしずく。漆黒の闇に銀光を灯すムラマツ・フルートの冴え冴えとした音色が、ここちよく耳を刺激する。バッハの無伴奏チェロ組曲は様々な編曲を許容する名作だが、このフルート版は、演奏の素晴らしさと共に〈全曲〉であることが特筆される。編曲のパウル・マイゼンは、リヒターのミュンヘン・バッハ管でのソロを始めディスクも多いドイツの重鎮。2020年6月23日に86歳で逝去された(マイゼン編曲版の楽譜は全音から入手可能)。ザビーネも彼の門下だ。ドレスデン・フィル首席を経て現在はシュターツカペレ・ドレスデン首席を務める。巻末にもちろん無伴奏パルティータを併録し、万全。