デイヴ・ピエトロが、3管のアレンジで描く混迷する現代社会と、希望の光
ニューヨークで活躍し、東京でもジョナサン・カッツ(p)、安ヶ川大樹(b)、江藤良人(ds)とのNYTC(New York Tokyo Connection)で3枚のアルバムをリリースしているデイヴ・ピエトロの、8枚目のリーダー作だ。本作でピエトロは3管のアレンジで、球体が絡まるように(Hypersphere)、様々な事象が同時進行して人々が翻弄される現代社会と、その中で大切なものを再発見することを描いている。録音は2019年の6月だが、リリース直前にコロナ禍でニューヨークはロックダウンとなり、ピエトロはさらに自己を見つめて、人とのコミュニケーションの大切さを再確認、このアルバムの自らのキャリアの中での重要性を再認識したそうだ。
マリア・シュナイダー・オーケストラの中核メンバーでもあるピエトロだが、本作も同オーケストラの同僚であるライアン・ケバリー(tb)、ジョナサン・ブレイク(ds)、ゲイリー・ヴァサーシ(p.key.org)、ロジェリオ・ボッカット(per)が重要な役割を果たしている。アレックス・シピアギン(tp)も、2000年代にマリア・オケのメンバーだった。
オープニング・チューンの“Kakistocracy”(悪徳政治)は、混迷するアメリカの政治状況を、複雑に絡み合う3管のメロディ・ラインと変幻するリズムで、描いている。妻への愛情を表現したバラードの“Gina”では、マリア・オケではアコーディオンで存在感を放っているヴァサーシが、ハモンド・オルガンでウォームな音空間を作り、ピエトロが美しいメロディを慈しむようにプレイする。エンディングの“Orison”は、ヨハネス・ワインデンミューラー(b)の重厚なベース・ラインに導かれ、ピエトロが最も重要と考える精神世界を、3管とリズムの対話で象徴している。
「音楽の演奏とは、まさに人とのコミュニケーションを象徴するもの」とピエトロは語る。ニューヨークのライブ・シーンの1日も早い復活を、期待したい。