インタビュー

シンカンセン『Shinkansen』トニーニョ・オルタらによるスーパー・グループが伝えるブラジル音楽の豊饒さ

(左から)ジャキス・モレレンバウム、リミーニャ、マルコス・スザーノ、トニーニョ・オルタ
Photo by Daryan Dornelles

ブラジル音楽の多様性がうかがい知れる注目作

 トニーニョ・オルタにジャキス・モレレンバウム、マルコス・スザーノ、リミーニャという、ブラジル音楽界の代表的な4人によるアルバム『新幹線』が発表された。すでに全曲がストリーミング配信されており、日本では10月にCDも発売される。本稿は、ジャキスと共にアルバムのプロデュースも担当した、ベーシストのリミーニャへの取材を元にしている。

 4人のユニット名であり、アルバム・タイトルでもあるトニーニョの曲名が示すように、日本との縁が深いブラジル人ミュージシャンによる作品というのが、本作のポイントのひとつとなっている。トニーニョは小野リサのアルバムに参加したり自身のアルバムに矢野顕子を迎えたりしており、ジャキスは坂本龍一や渡辺貞夫、伊藤ゴローのアルバムに参加、マルコスはパンデイロの教則ビデオを日本で制作したり、THE BOOMの宮沢和史率いるGANGA ZUMBAのメンバーとして活動したりしているという具合だ。彼らが何度も日本で演奏しているのは言うまでもない。ただしリミーニャだけは、2016年にモントルー・ジャズ・フェスティヴァルを観る目的で来日するまで、日本との縁はなかったという。

 「2010年にトニーニョのアルバムを録音している時、いちど日本へ行ってみたいなあと言ったら、それじゃあ日本で演奏するためのバンドを組もうという話になったんだ(笑)。それは素晴らしいアイディアだということで、日本で演奏する曲を集めたアルバムも作ることにしたわけ」

 話が決まると、リミーニャは早速マルコスとジャキスに声をかけた。

 「トニーニョのギターにジャキスのチェロ、マルコスのパンデイロとエレクトロニック・パーカッション、僕のベースという、ドラムスもキーボードもない少々変わった独特な楽器編成になったけれど、結果にはとても満足しているんだ。トニーニョはMPB(ボサノヴァ誕生以降のブラジルのポピュラー音楽)とジャズに対する優れた感覚の持ち主で、ジャキスはクラシックのミュージシャンとして知られている一方、トム・ジョビンと長年活動した経験もあるし、ジャズも大好き、マルコスはジャズからファンク、ロック、ポップスまで何でもイケるという具合に、みんなの音楽背景が多岐にわたっているからね」

 多岐にわたる音楽背景という意味では、リミーニャも他の3人に負けていない。母親がクラシックのピアニスト兼ピアノ教師、薬剤師の父親も趣味でバイオリンやギター、マンドリンといった弦楽器を演奏するという、音楽的な家庭環境に育った彼は、エリス・レジーナのテレビ番組でバーデン・パウエルやパウリーニョ・ノゲイラ、ジンボ・トリオといったブラジルのトップ・ミュージシャンを知り、やがてはデイヴ・ブルーベックやオスカー・ピーターソン、ウェス・モンゴメリーといったジャズも聴くようになったという。ビートルズやシャドウズに影響を受けたバンド、オス・バオバスのベーシストとしてプロ・デビューした彼は、ロック/プログレッシヴ・ロック・バンドのムタンチスでの活動を経て、プロデューサーとしてジルベルト・ジルやエリス・レジーナ、ジョアン・ジルベルトなど、ブラジルの様々な人気アーティストのアルバムを数多く手がけた。1988年にはロサンゼルスに移り、リカルド・シルヴェイラのアルバムをプロデュースしたりセルジオ・メンデスのアルバムに参加したりと、まさに八面六臂の活躍ぶりである。

 こうした守備範囲の広い4人が曲やアイディアを持ち寄った『新幹線』は、サンバやボサノヴァの心地良いリズムの曲からLAフュージョン風の“マコト”、ペルナンブーコ州の伝統音楽マラカトゥのリズムを基調にした神秘的な“マラカトゥーズデイ”まで、現代ブラジル音楽を形作るありとあらゆる要素を凝縮した濃密な内容のアルバムになっている。主役の4人に加えて坂本龍一やブランフォード・マルサリス、ジェシ・サドッキとゲストも豪華だが、単なるオールスター作品という以上の価値を持っていると言えるだろう。

 


シンカンセン (Shinkansen)
ジャキス・モレレンバウム、リミーニャ、トニーニョ・オルタ、マルコス・スザーノというブラジル音楽界の至宝4人による奇跡のユニット。これまでに何度も日本を訪れていたメンバー、それぞれの来日時の想い出が元となり本作が誕生。CDリリースは日本のみ。

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