ジャンルを超越した音楽性、多彩にして多様なバンドサウンド、そして、日々の繊細な思いを普遍的なメッセージにつなげる歌。こちらの予測を気持ちよく超えていくマカロニえんぴつの楽曲を聴いていると、〈バンドマジック〉という言葉がどうし ても浮かんできてしまう。

2012年、はっとり(ヴォーカル、ギター)を中心に神奈川で結成されたマカロニえ
んぴつ。その最大の特徴は、驚くほど幅広い音楽性だろう。ハードロック、ギターポップからボサノバ、ジャズ、ラテン、R&Bなどのエッセンスを随所に散りばめたサウンドは、一つのバンドとは思えないほど多種多様。マカロニえんぴつがブレイクしたきっかけ“ブルーベリー・ナイツ”はシティポップやブラックミュージックが混ざり合ったナンバーだが、1曲のなかに様々な音楽のテイストを混ぜるのもこのバンドの得意技。はっとりはユニコーンからの影響を公言しているが(〈はっとり〉という名前は、ユニコーンのアルバム『服部』に由来している)、マカロニえんぴつのハイブリッドなセンスはまさに唯一無二。メンバー全員が音大出身で、プレイヤーとしての個性がしっかり活かされていることも彼らの強みだ。

マカロニえんぴつ 『愛を知らずに魔法は使えない​』 Toy's Factory(2020)

11月4日にリリースされるメジャー・ファーストEP『愛を知らずに魔法は使えない』は、マカロニえんぴつの音楽的特性――幅広いジャンルを結合させ、独自のポップミュージックにつなげる――がこれまで以上に反映された作品だ。

オープニングを飾るのは、“生きるをする”(TVアニメ「ドラゴンクエストダイの大冒険」オープニング主題歌)。かき鳴らされるギターと〈僕が僕を愛し抜くこと/なあ、まだ信じてもいいか?〉、ライブ的な臨場感に溢れたバンドサウンド、ドラマティックなメロディー、楽曲の後半でいきなり曲調が変化するアレンジメントが一つになったこの曲は、〈マカロニえんぴつの王道〉と呼びたくなるアッパーチューンだ。

キレのいいストリングスとワウ・ギターを融合させたイントロから始まる“ノンシュガー”は、独特のミクスチャー感覚に貫かれた楽曲。高めにチューニングされた80‘s風のビート、ハードロック感のあるギター、煌びやかなシンセなどを融合させ、ダンサブルにして叙情的なポップスに昇華させる技術は、現在のバンドシーンのなかでも突出している。

“溶けない”は、はっとりのヴォーカルの魅力をたっぷり味わえる楽曲だ。何度もすれ違い、誤解を生みながらも、日々のなかで優しさを見つけ、大切な人との関係を築いていきたい。そんな思いを込めた歌をカラフルなリズムとともに響かせるこの曲は、年齢やジェンダーを問わず、あらゆる人の心を捉えるはず。シンプルな言葉で物事の本質を捉えるソングライティングの妙がわかりやすく出ている曲だと思う。

個人的にもっとも印象的だったのは、4曲目の“カーペット夜想曲”。4つ打ちのビートと眩い光を放つシンセを中心にしたトラックのなかで放たれるのは、〈お姉さん〉、〈お父さん〉、〈お母さん〉、〈お嬢さん〉に向けたエール。一聴するとコミカルな楽曲なのだが、軽やかなメロディとともに〈どうか会えるうちに会いたい人に!〉というフレーズが飛び込んできて、思わずドキッとさせられてしまう。ポップとシリアスが絶妙にブレンドされた、これもマカロニえんぴつらしいナンバーだ。

さらに長谷川大喜(キーボード)の作曲による“ルート16”、EPのタイトルになった〈愛を知らずに魔法は使えない〉というフレーズが高らかに響く“mother”(TVアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」エンディング主題歌)を収録。聴き返すたびに「このアレンジ、こんなふうになってたのか」「この歌詞には、こんな意味があるのかも」と新たな気づきがある作品に仕上がっている。

また初回限定盤に付属するDVDには、9月3日に東京・豊洲PITで行われた無観客生配信ライブ〈マカロック ONLINE ワンマン~豊洲から愛を込めて~〉の映像を完全収録。さらに特別LIVE映像として“嘘なき”、“ミスター・ブルースカイ”の2曲が収められている。“ブルーベリー・ナイツ”、“ヤングアダルト”などの代表曲を生々しいライブパフォーマンスとともに体感できる貴重な映像作品だ。

決まったジャンルを追求するバンドの美学もあるが、マカロニえんぴつはそうではなく、自分たちの音楽的な欲求に従いながら、何にも縛られることなく表現を続けている。音楽を通し、リスナーに〈こんなに自由でいいんだな〉という実感を与える――EP『愛を知らずに魔法は使えない』を聴いていると、それこそがこのバンドの最大の武器かもしれないと感じてしまう。