一昨年のメジャー進出以降、瞬く間に音楽シーンのど真ん中に突き進んだマカロニえんぴつから、ニューアルバム『ハッピーエンドへの期待は』が届けられた。“ハッピーエンドへの期待は”(映画「明け方の若者たち」主題歌)、“はしりがき”(「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」主題歌)などの話題曲を収めた充実作だ。
2020年から2021年にかけて、存在感や知名度を含め、もっとも大きな飛躍を果たしたバンドが〈マカロニえんぴつ〉だったことは、おそらく異論の余地はないだろう。
一昨年11月にメジャーファーストEP『愛を知らずに魔法は使えない』を発表。その後も“はしりがき”(「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」主題歌)、“メレンゲ”(JR SKISKI 2020-2021キャンペーンテーマソング)などの大型タイアップ曲によってリスナーの幅を広げる一方、全国ホールツアー〈マカロックツアーvol.11 ~いま会いに行くをする篇~〉(ファイナルは初の横浜アリーナ公演)、さらに全国ライブハウスツアー〈マカロックツアーvol.12 ~生き止まらないように走るんだゾ!篇~〉を成功させ、オーディエンスに直接音楽を手渡すことにも注力してきた。
言うまでもなく、フェスやライブの開催が困難になったこの2年間は、ロックバンドにとって未曾有の状況。この難しい時期のなかでマカロニえんぴつは、〈さまざまなメディアを通して楽曲を伝える〉〈状況に合わせた形でライブを継続する〉というあまりにも真っ当な方法で自らの音楽の魅力を確実に伝え、ブレイクの道を着実に辿ってきたのだ。その根底にあるのはもちろん、楽曲の良さと〈何としても自分たちの音楽を聴いてもらうんだ〉という強い意思。その誠実すぎるスタンスは、メジャーファーストフルアルバム『ハッピーエンドへの期待は』にも強く反映されている。
奔放なアレンジセンスと高い演奏能力に裏打ちされたサウンドメイク、そして、日々の生活のなかで生まれる喜怒哀楽を――まるで短編映画のような濃度と情報量で――描き出すソングライティング。アルバム『ハッピーエンドへの期待は』で彼らは、これまで彼らが培ってきた音楽性をさらに発展させている。収録曲すべてに明確なキャラクターがあり、ドラマ性のあるメロディーライン、リアルな心象風景を映し出す歌詞、意外性に富んだ構成などを含め、一瞬も飽きることがない。既存の楽曲もアルバムのなかで聴くと違った表情が感じられ、決して大げさではなく、〈よくぞここまで質の高い曲を揃えたな……〉と驚かされてしまう。
そのことを象徴しているのが、リードトラックの“なんでもないよ、”。どこかクラシカルな手触りのピアノと〈僕には何もないな 参っちまうよもう〉というフレーズで始まるこの曲は、〈君〉に向けられた、どこまでも強く、深い愛を描いたミディアムバラード。会いたい、一緒にいたいみたいな気持ちを遥かに超え、思わず〈ただ僕より先に死なないでほしい〉とつぶやきそうになる〈僕〉の姿は、年齢、ジェンダーを超え、幅広い層のリスナーの心を打つはずだ。ベース、キックを際立たせながら、アコギ、鍵盤などの生楽器の響きを活かしたサウンドメイク、そして、ソウルフルなグルーヴ感と歌心を併せ持ったはっとり(ボーカル/ギター)のボーカルも素晴らしい。
タイトル曲“ハッピーエンドへの期待は”(映画「明け方の若者たち」主題歌)も、本作の軸を担う楽曲の一つだ。冒頭は 〈「残酷だったなぁ人生は」思っていたより〉というアカペラ/ハーモニー。次の瞬間、骨太のロックサウンドが鳴り響き、楽曲がドライブを始める。往年のハードロックの匂いを感じさせるアンサンブルとともに描かれるのは、まだ何者でもなかった時期の切なくも愛らしい思い出、そして、そんな日々を過ごした仲間に対する思い。映画「明け方の若者たち」の世界とリンクしつつ、マカロニえんぴつの本質を射抜くような意義深い楽曲だと思う。
その他の新曲も聴きごたえたっぷり。洗練されたポップセンスによってバンドの成熟ぶりを実感させられる“好きだった(はずだった)”(TBS系「王様のブランチ」2021年4月~9月テーマソング)、アコギの弾き語りで〈あなたじゃなきゃだめかもなあ〉という素朴で切実な思いを紡ぐ“キスをしよう”(ファンの間で音源化が待ち望まれていた名曲!)、80年代~90年代のヘビィロック直系のサウンドと寸劇(?)のような展開にクラクラする“TONTTU”(作詞・作曲は、はっとりとギターの田辺由明の共作)、さらにはっとりがDISH//に楽曲提供した“僕らが強く。”のセルフカバーも収録。ジャンルを自由に行き来する音楽性をたっぷり味わえるのも、本作の魅力だろう。
メジャー進出以降の活動を網羅しながら、サウンド、メロディー、歌詞、演奏などすべての要素に置いて大きな進化を遂げたアルバム『ハッピーエンドへの期待は』。マカロニえんぴつにとってはもちろん、20年代のバンドシーンにとっても大きな指針になるような充実作の誕生だ。