客席こそがメインステージ。なつかしの曲を共に歌い、喜びを分かち合う
60代から80代のマダム&ヤングシルバーに絶大な人気を誇る男性声楽家グループ〈ザ♂ベルカント5シンガーズ〉。彼らは、全国各地の公民館などで活動している地域住民による合唱グループ〈童謡コーラス〉(約800団体、3万名在籍)の指導員なのだという。
「家にひとりでいることが多くなりがちな主婦の方々が、外に出て友だちを作ろう、健康のためにみんなで歌おうという目的で結成されたのが〈童謡コーラス〉。僕たちの本業は指導員として童謡コーラスの合唱指導と運営支援につとめることです。それと同時に、地域住民と共に学ぶ音楽家としても研磨を積んでいる中で、皆さんの応援により誕生したのが指導員による声楽家グループ〈ザ♂ベルカントシンガーズ〉。そして、選抜メンバー5名で構成された〈ザ♂ベルカント5シンガーズ〉として我々は活動しています」【秋山】
そんな彼らが、クラシックの歌唱法(ベルカント唱法)による美しいハーモニーで昭和歌謡を歌うアルバムの第3弾がリリースされた。
「年代によってさまざまですが、戦後復興期の歌謡曲、フォーク・ソング、グループ・サウンズなど、なつかしい曲に触れると〈女学生の頃に聴いた曲だわ〉と気持ちがその当時に若返って、元気になりますよね」【和田】
アコースティックでゆったりしたテンポのアレンジは、聴くだけでなく、乙女の皆さんが自分で歌うためでもある。彼らのコンサートでは客席が歌うのだ。
「僕たちはまずコンサートに来てくださった方々を〈お客さん〉とは呼びません。客席こそがメインステージなので、一緒に歌う〈出演者の皆さん〉です。ほぼ100%歌いますね。歌詞を知らなくても、なんとなく知っているメロディーを口ずさむ。まず声を出して、お友だちと一緒の時間を過ごすことで一体となる場がコンサートで、そのお手伝いをするのが僕たちという感じです。歌えないコンサートをしたら、怒られますからね(笑)」【髙木】
「コンサートのあと、〈楽しかった! 生きててよかった!〉と言っていただけるのがなにより嬉しい瞬間ですね。僕らはみんな音楽大学で勉強してきましたが、音楽がこんなに直接的に誰かのお役に立てるなんて思っていませんでした」【松本】
コロナ禍で活動が大幅に制限される今、「みんなと歌えるその日まで」というメッセージ・ソングを録音したという。アーティストとリスナーという垣根を超え、音楽による生涯学習を通して〈リスナーと共に学ぶ〉彼らの活動の意義は大きい。