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コラム

パール・ジャム(Pearl Jam)を2020年代に聴くということ

『MTV Unplugged』CD化を機に噛みしめた、彼らが生き続ける理由

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 グランジ全盛期を象徴する名演

『MTV Unplugged』は、パール・ジャムが92年3月16日のスタジオ・ライブ番組「MTV Unplugged」に出演した際に披露した7曲の音源を収めた作品だ。昨年の〈レコード・ストア・デイ〉でアナログ盤が限定発売されたほか、2009年の『Ten』DXエディション/スーパーDXエディションにはライブ映像のDVDが付属していたものの、CD単体/配信でのリリースは今回が初めてとなる。

〈アン・プラグド〉……つまり、〈プラグを抜いた〉アコースティックかつラフなスタイルで演奏する同企画は89年にスタートし、90年代の音楽シーンを彩るMTVの名物コンテンツとして、エアロスミス、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、ニール・ヤングといった錚々たるアーティストが出演を果たしている。そんな中、デビューからわずか半年しか経っていない新人だったパール・ジャムが抜擢されるのは極めて異例だったという。

さっそく再生ボタンを押してみよう。『Ten』から“Oceans”で幕開けするこの日のライブは、到底アコースティックとは思えぬパワフルで生々しいアンサンブルが魅力。「俺のサーフボードについて書いた、ちょっとしたラブソングだよ(笑)」と曲紹介するエディのバツが悪そうなMCも微笑ましいが、『Ten』収録曲が大半を占めるセットリストにおいて、2曲目に“State Of Love And Trust”が披露されていることもポイントだ。同楽曲はエディや故クリス・コーネル(サウンドガーデン/オーディオスレイヴ)、アリス・イン・チェインズらも出演したキャメロン・クロウ監督の映画『シングルス』(92年)のサントラに提供されたナンバーで、今もパール・ジャムのライブでは人気の高いハイ・エナジーな1曲。焦燥感たっぷりにつんのめったビートとアコギのリフに、エディの剥き出しなシャウトが絡んでいくに様は、思わずこちらも熱くなる。

〈MTV Unplugged〉での“State Of Love And Trust”
映像でエディ・ヴェダーが着用する茶色のコーデュロイ・ジャケットは、シアトルのポップ・カルチャー博物館〈MoPOP〉に展示されている
 

魂を解放するような“Black”、原曲よりもどこかレイドバックした“Even Flow”も素晴らしいが、エディがFワードをガッツリ歌ってしまう(放送時と音源ではカット)“Porch”では、遂にバンドのグルーヴが大爆発。案の定、エディが椅子の上でサーフィンするわ、ジェフがバス・ドラムの上に乗って弾き倒すわの大暴れなので、ぜひYouTubeのライブ映像も合わせてチェックしてみてほしい(メンバー全員がロン毛というルックスにも驚くはず)。しかし冷静に考えてみれば、92年当時はメンバーもまだ20代後半。そもそもアコースティック・セッションの経験すら片手で数えられるくらいだったそうだし、後半に向かって帽子もコーデュロイ・ジャケットも脱ぎ捨て、どんどん熱を帯びていくエディのエモーショナルな歌唱は、ニルヴァーナの『MTV Unplugged In New York』(94年)と並ぶグランジ全盛期の名演と呼べるだろう。

〈MTV Unplugged〉での“Porch”
2分18秒ごろからエディが自らの腕にマジックで書き殴る〈PRO-CHOICE〉とは、人工妊娠中絶の合法化を支持すること。産むか産まないかは女性の選択(チョイス)に任されるべきだとする主張だ
 

米国内だけで1,300万枚を売った『Ten』は、ローリング・ストーン誌のダン・エプスタインいわく〈オルタナティヴ・ロックとメインストリーム・ロックの区別を曖昧にした〉アルバムだったという。カメラ・クレーンからダイヴを決行してしまう命知らずなパフォーマンスに、炎上を恐れないポリティカルな意思表示、あるいはエディの切実な歌声と言葉(“Jeremy”は親に理解されずに育った孤独な少年が、クラスメートたちの前で拳銃自殺を遂げた実際の事件が元になっている)は行き場のない怒りを抱えた若者たちの心をつかみ、パール・ジャムは〈ジェネレーションXの代弁者〉とまで評された。誤解を恐れずに言えば、当時の彼らを取り巻く熱狂とセンセーションは、〈音楽ジャンルを殺した〉とまで言われる現代のジェネレーションZ(90年代後半から2000年代にかけて生まれた世代)の象徴、ビリー・アイリッシュと同等かそれ以上でさえあったのだ。

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