AC/DC、6年ぶりとなる新作『POWER UP』のリリースを記念して、タワーレコードではフリーマガジン〈別冊TOWER PLUS+〉を発行! ここではその中面に掲載されたコラムを掲載いたします。別冊TOWER PLUS+は、タワーレコード全店にて11月13日(金)より配布中です!
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不変にして不屈のAC/DC、6年ぶりとなる新作を発表。相次ぐ危機を乗り越えてきた彼らが起こした新たな奇跡の主人公は『Power Up』と命名されたアルバムと、今作の根底となるものを遺してきた稀代のリフ・メイカー、マルコム・ヤングである。この1枚が、ネガティヴをポジティヴに変換し、世界に活気をもたらす!
『Rock Or Bust』から6年を経て、AC/DCの新作アルバムが登場する。その事実自体がまさに奇跡レベルの出来事だといえる。なによりも、このバンドがこうして存続していること自体が信じ難いことなのだ。バンドの看板ギタリストであるアンガス・ヤングは「このアルバムはマルコムに捧げるものだ」と語っている。それは彼の実兄であり、このバンドのトレードマークであるシンプルかつ強靭なギアー・リフの生みの親だったマルコム・ヤングのことに他ならない。認知症を患い、前作の時点ですでに戦列から離れていた彼は、2017年11月18日に64歳の若さで他界。しかし彼が遺したリフの数々が、今作にとっての基盤となっているのだ。
それだけならば〈奇跡〉などという言葉を使うのは少しばかり大袈裟かもしれない。が、マルコム離脱という局面をヤング兄弟の甥にあたるスティーヴィーの参加という離れ業で乗り切った後にも、危機は続いた。ドラマーのフィル・ラッドの逮捕。フロントマンのブライアン・ジョンソンが見舞われた聴覚障害。結果、『Rock Or Bust』に伴うワールド・ツアーは以前にも参加歴のあるクリス・スレイド、そしてブライアンの代役を自ら志願したアクセル・ローズの協力によりなんとか完遂されたものの、同ツアー終了をもってベーシストのクリフ・ウィリアムズが引退を宣言。その時点でバンドの歴史に終止符が打たれたとしても不思議ではなかったはずだ。
しかしAC/DCは終わらない。終わるわけにはいかない。『Power Up』と銘打たれたこの新作アルバムには、アンガスとスティーヴィーばかりではなく、ブライアンも、フィルも、クリフも名を連ねている。誰もが納得する、文句の付けようのない顔ぶれが揃っていて、しかも〈これぞAC/DC!〉と思わず声をあげてしまいたくなるほどAC/DC以外の何物でもない、高純度のロック・アンセムが詰まっている。新機軸を感じさせる楽曲や実験的な試みなどは見当たらないし、裏をかいてみせるかのような展開もない。しかし余分なものはひとつもなく、AC/DCをAC/DCたらしめる要素がすべて揃い、絶妙のバランスで共存している。斬新さは皆無でも新鮮な作品は成り立ち得る――まさにそんなシンプルな事実を証明するかのような1枚なのである。
アルバムの幕開けを飾る“Realize”の最初の一音が耳に飛び込んでくると同時に、全身を電流が駆け巡るような刺激をおぼえる。その一瞬で、聴く者のスイッチをONに切り替えてしまう魔法をこのバンドは心得ている。しかも初めて耳にする純然たる新曲ばかりなのに、何十年も前から親しんできたかのような愛着がすぐさま湧いてくる。彼らの新作が登場するたびに味わってきたあの感覚が、こうして2020年に味わえるというだけでも喜ぶべきことではないか。