Corneliusの新作『Ethereal Essence』は、Corneliusが近年発表してきたアンビエント色が強い作品を中心に再構築したアルバム、という位置づけだ。カップリング曲や展示への提供曲などが含まれる作品だが、本作のために再編集や再レコーディングが施された曲が多数あり、雑然とした印象はもちろん皆無で、スムーズな一貫性をもったアルバムに仕上がっている。単なる〈仕事集〉に留まらず、新たな側面やモードが垣間見える、Corneliusのディスコグラフィの中でも類を見ない響きとたたずまいが実に美しい。

そんな『Ethereal Essence』のリリースとともに、活動開始から30周年を祝って、Corneliusは2024年5月から中国・ヨーロッパ・アメリカを回るワールドツアーを開催している。さらに日本では7月7日(日)に東京ガーデンシアターで、13日(土)にロームシアター京都で30周年記念公演もおこなう。

同公演で販売されるパンフレットには、Corneliusこと小山田圭吾が選曲した1000曲(!)のプレイリストが掲載される。そして本日6月25日からは、プレイリストと連動した選盤の展示と販売がタワーレコード渋谷店の6階で開催。今回オープンから10周年を迎えたMikikiは、これらにあわせて小山田に特別インタビューを実施。編集者/批評家の松村正人が聞き手を務め、1000曲の中身を中心に語ってもらいつつ、〈リスナーとしての小山田圭吾〉が浮かび上がる内容になった。 *Mikiki編集部

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Cornelius 『Ethereal Essence』 ワーナー(2024)

 

ビートルズもストーンズも、小山田圭吾の〈1000本ノック〉プレイリスト

――どのようなきかっけで1000曲のプレイリストをつくることになったんですか。

「今年ソロ活動30周年で記念のライブをやるんですけど、そのためのパンフレットの記事として1000曲選ぶという企画を考えたんです。最初は300曲の予定だったんだけど、どうせなら、ということで1000曲になりました。これくらいあると水原弘さんの“黄昏のビギン”もなじんでくるんですよ(笑)」

――1000曲選ぶのにどれくらいかかりました?

「空いている時間をつかって2〜3日です。でもまあ選び抜いたというよりは思いついた順に入れていったので漏れがあるし、サブスクをつかっているからそこにない曲は入ってないんですね。洋楽と邦楽の区別も、ジャンルも時代区分もなく、という感じです」

――選曲にあたってはとくに意識されたことはないということですが、仮に視点を設けたいと思います。ひとつは誰もが知るアーティストの楽曲でなにを選んだかということです。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ――等々でどのような選曲をされるかというのが気になるところです。目につくところからだと、まずビーチ・ボーイズの“Meant For You”。短い曲です。

「ああ、これね」

――小山田さんとビーチ・ボーイズなら、それこそテルミンが活躍する“Good Vibrations”やフリッパーズ・ギターで引用されていた“God Only Knows”を考えてしまうのですが。

「そういう大好きな曲があるんですけど、アルバムとしては『Friends』(1968年)が好きなんですよね。もちろん『Smile』(1967年)とか『Pet Sounds』(1966年)とか、あのへんはもちろん大好きなんですけど、『Friends』はサウンドプロダクションがすごく薄くて、(アルバムの尺も)短くて聴いた気がしなくてアンビエント的に聴けるんですね。『Pet Sounds』だと対峙しなきゃいけない部分が強すぎてつかれちゃうっていうのもあって、そうすると『Friends』の再生回数が増えてしまって。

ビーチ・ボーイズのようなでかいアーティストになると選ぶのがたいへんすぎて、逆にヘンな曲、選んじゃうっていう現象になりがちじゃないですか(笑)」

THE BEACH BOYS 『Friends』 Capitol(1968)

――すごくよくわかります。

「でもこの曲はほんとうに好きなので、これになりました。相当かわった選曲だと思うんですけどね」

――ビートルズは“Tomorrow Never Knows”(1966年)です。こちらは直球です。変化球を投げたり、ストレートを放ったりといった感じですね。

「もう気分しだいです。そこまで熟考してないですよ(笑)。

でも“Tomorrow Never Knows”はテープコラージュで現実音を使っているところとか、自分の好きな要素がすごく入っています」

――一方でストーンズは“悪魔を憐れむ歌(Sympathy For The Devil)”をとりあげています。

「これもほんと気分しだいです(笑)。ハイド・パークのライブの映像とか、かっこいいですよね。この曲は『Beggars Banquet』の収録曲だけど、『Let It Bleed』(1969年)も好きですね。

でもストーンズ好きな方はほんと好きじゃないですか。僕はそこまではぜんぜんいってないんですけど、でもライブは観に行きましたよ。こないだの来日(2014年2月26日、3月4日、6日の東京ドーム公演)のとき、はじめて観ました。それからもうずっと注目しています。インスタも全部フォローしています(笑)」

THE ROLLING STONES 『Beggars Banquet』 Decca(1968)

THE ROLLING STONES 『Let It Bleed』 Decca(1969)

――注目している方はおそらく何百万人かいらっしゃるとは思いますが(笑)、小山田さんがついにストーンズに注目されるようになったと。

「現在もつねに追いかけてます。キースが最近“I’m Waiting For The Man”をカバーしていたじゃないですか。それがめちゃくちゃよくて、ヴェルヴェッツ好きなんだっていうのが衝撃で。でもキースにぴったりでした。キース節でよかったですよ」