ジャズピアニストでありながらメタルファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。誰にでも、以前聴いていた音楽から一度は遠ざかり、一周回ってまた好きになるっていうこと、ありますよね。今回は、西山さんが一周回ってまた好きになったという、とあるメタルバンドをご紹介いたします。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


突然ですが、「一周回って好きになった」って、よく言うじゃないですか。

〈一周〉って、多くの人の感覚では、どのぐらいのスパンなんでしょう。

私は一周って12年、同じ干支が巡ってくるぐらいだと思っていたのですが、42歳にして今、活動が一周回った感じがしています。演奏活動を始めてから、約24年。一周回るのに、時間がかかりすぎですかね。もしかして、コロナで一旦仕事がゼロになったことで、活動初期のあまり仕事がない時期を思い出したからかもしれない。でも、それだけではなく、曲を作っていても、練習していても、音楽を聴いていても思う。昔よくわからなかったものがとっても好きになったりして、なんだか一周回った感じがするんですよ。

じゃあ今、「一周回って好きになった」と強く感じているものが何かというと、AC/DCです。

昨年発表のアルバム『Power Up』がとにかく最高でした。あまりにも昔から変わってないところ、カラッとしたポジティブさしかないエネルギー。以前と変わらずこれを提供できるって、これって音楽として、生き方として、バンドとして、滅茶苦茶ストロングじゃない?と感激しまして。えっ何この最高な音楽と最高な人たちは、と。

私の活動の〈一周〉24年のなかで、音楽を辞めた人も沢山見てきたし、もっと長い年数で素晴らしい音楽をしている先輩が沢山いることを考えると、〈続ける〉ということはそれだけで尊いと思うし、財産で、才能で、凄いことだなと、改めて心から思うんですよね。

とにかく、続けてる人は皆えらい。特にAC/DCは!

そして、その一周回ってAC/DC最高というところから、昔聴いていなかったパーティー系のハードロック、メタルを聴くのも非常に楽しくなりました。2020年のAC/DCのおかげで、音楽が広がったのを強く実感しています。イングヴェイやリッチー、ドリームシアターを聴いていた高校の時、パーティー系の音楽をちょっと忌避していた感じって、なんだったんだろう。高校生リスナーのちっぽけなイキリだったのかもしれませんね。

 

ということで、12月といえばクリスマス、クリスマスといえばツイステッド・シスター(Twisted Sister)のとても楽しいクリスマスアルバムでございます。以前だったらこういうのは絶対聴いていなかった、最高のパーティーアルバム。

2年前にジューダス・プリーストのシンガー、ロブ・ハルフォードのクリスマスアルバム『Celestial』が発売された時、それについて一度書きました。

その際に、ツイステッド・シスターの2006年のクリスマスアルバム『A Twisted Christmas』についても軽く触れましたが、ハードロック/ヘヴィメタル系のクリスマスアルバムといえば、これが定番で有名かなと思います。問答無用に明るく楽しいクリスマスアルバムなので、クリスマスのBGMにちょっと気分を変えたい時、これはとってもいいですよ。

 

アルバム冒頭の“Have Yourself A Merry Little Christmas”は、この時期いろんなバージョンで街で流れている曲で、私自身もジャズの現場で何度も何度も演奏してきた美しい曲ですが、ツイステッド・シスターは三段階で聴かせてくれる楽しい演奏です。基本、ギターとベースが全部同じ音っていうのが、もうなんだか高校生が家で友達と盛り上がってるみたいで、最高です。

同じ曲のジャズのお勧めバージョンも紹介します。

 

“O Come All Ye Faithfull”は、このバンドの大ヒット曲“We’re Not Gonna Take It”とミックスしたアレンジ、楽しいです。“We’re Not Gonna Take It”はそもそも“O Come All Ye Faithfull”を下敷きに書かれた曲だったとのことで、バンドによるネタバレという、あっけらかんとしたこの姿勢、最高です。

こちらは原曲“We’re Not Gonna Take It”のMV。

 

そして大定番の“White Christmas”、ギターの見せ場をうまくはめ込んであって、楽しい。

こちらもジャズのお勧めバージョンを。ボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)のクリスマスアルバムから。

 

“Silver Bells”では、クリスマスソングでライブ感満載のコールアンドレスポンスができるとは思いませんでした。

ジャズバージョンもどうぞ。トニー・ベネット(Tony Bennett)のバージョンです。

まあこのような感じで、とにかく明るくて楽しくてハッピーなので、絶対良い気分で過ごせると思います。

ちなみに、ツイステッド・シスターのオフィシャルアカウントがラスベガスのライブをフルで載せてくれているので、こちらもどうぞ。

ツイステッド・シスターなら、他にも“I Wanna Rock”のMVもぜひ観て欲しいです。

音だけ聴いても楽しいけれど、観ることでもっと楽しくなるバンドですよね。

高校生のメタル漬けの日々では、こういう明るいハードロック、LAメタル系のものは全然聴いてなかったのですが、一周回ってこういうものが本当に楽しくなりました。

ジャズで演奏の仕事を始めた24年前は、クリスマス前の12月はパーティーやイベントの仕事が非常に多く、下手っぴな私でも重なって断るぐらい仕事の話が入ってきていましたが、近年その類の仕事が明らかに減っており、ゆっくり好きな音楽でも聴いて過ごすのが一番だなあと思っています。

ちなみに、AC/DCのクリスマス曲もぜひどうぞ。

今年も一年、この連載をご覧下さって、ありがとうございました。私も普段の仕事こそジャズですが、「メタルがあれば頑張れる」といつも思っているので、来年も楽しいメタルライフを過ごしたいと思います。

良いお年をお迎え下さいませ!

 


LIVE INFORMATION:西山瞳

2021年12月22日(水)19:30~
YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
西山瞳ソロ&クリスマス余興スペシャル
(前半はソロライブ、後半は別楽器でクリスマス会をします)

2022年1月10日(月・祝・昼)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
西山瞳ソロ
開演:14:00
料金:2,800円(税込)

2022年1月16日(日)東京・小岩COCHI(電話03-3671-1288)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)
開演:20:00(2セット)
ミュージックチャージ:2,800円(税込)

2022年1月19日(水)埼玉・蕨Our Delight(電話048-446-6680)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、伊東佑季(ベース)

★各ライブに関する詳細はこちら

 

RELEASE INFORMATION

西山瞳トリオ、7年ぶりスタジオアルバム『コーリング』発売中!

西山瞳トリオ 『コーリング』 MEANTONE RECORDS(2021)

リリース日 :2021年9月15日(水)
価格:2,970円(税込)
レーベル:Meantone Records
西山瞳(ピアノ)、佐藤“ハチ”恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)

TRACKLIST
1. Indication
2. Calling
3. Reminiscence
4. Lingering In The Flow
5. Etude
6. Loudvik
7. Drowsy Spring
8. Folds of Paints

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。