©Elliot Ross

ワン・アンド・オンリーの存在であるコルネット奏者、ブルーノート移籍第一弾『レインボー・サイン』をリリース!

 1963年生まれのロン・マイルスは 、大学での教鞭職も得るデンヴァーを拠点とするコルネット奏者だ。

 「コルネットの方がトランペットより温かみのある音色なんだ。昔は皆、コルネットを吹いてたんだ、1927年にルイ・アームストロングがトランペットに持ち替えるまではね。そこでコルネットは終わってしまった。でも、私はなぜかコルネット奏者に惹かれてきた。それにギターとの相性もいい。コルネットの音そのものが好きなんだろうな」

 ギターの話が出たように、ロン・マイルスはギター好きのジャズ・マンである。ビル・フリゼール、ブランドン・ロス、チャーリー・ハンター、メアリー・ハルヴァーソンら何人ものギタリストと積極的に関わってきている。

 「今、君が名前を挙げたのは全員が本当にユニークで独自のスタイルを持つ。さらにはギターという楽器の特性もあり、特に今挙げたギタリスト達の演奏はハーモニーという意味で示唆に富むことが出来るんだ。例えばピアノだったら、コードの8音を弾いて完璧に音を埋めてしまうのに対し、(ギターなら)2音しか弾かない……というように。もう一つは、私がブルースを好んでいるからかな。彼らは皆、なんらかのブルースの感性を持っている奏者だと思う」

 マンハッタン音楽院を経て、86年以降自己リーダー作をグラマヴィジョンやエンヤ/イエローバード他からリリース。特にビル・フリゼールとは親しく、マイルスは20年以上も前から多くの自己作の録音にフリゼールを呼んでいる。近年では、ジョシュア・レッドマンの『スティル・ドリーミング』(ワーナー・ミュージック、2018年)ではレッドマンとフロントの2管を形成もした。だが、そんなマイルスをして、現クインテットを得たことは僥倖であったという。

 「(転機として)まず頭に浮かぶのは、前作『アイ・アム・ア・マン』(ミューザック、2017年)でこのバンドが出来たことだ。ビルとはデュオ・アルバム『Heaven』(Sterling Circle、2002年)も作っていたので〈デュオに誰を加えたらいいだろう?〉って考え始めたのが最初だ。そこで〈じゃあブライアン(・ブレイド)を加えよう〉となり、オーケストラルな曲がさらに書けていったので〈他に誰を加えよう〉、〈じゃあジェイソン(・モラン)とトム(トーマス・モーガン)だ〉となったんだ。この顔ぶれが揃ったのは『アイ・アム・ア・マン』が初めてで、それまで一緒にやったことはなかった。でも、作る過程で繋がっていった。私にとっては夢のようなバンドだね」

 〈夢のバンド〉について、マイルスはこうも語る。

 「彼らは全員、素晴らしい〈曲を奏でるプレイヤー〉なんだ。それぞれの楽器で歌を歌う、素晴らしいシンガーとでも言うのかな。もう一つ彼らが優れているのは、音楽はこうあるべきというアジェンダをあらかじめ用意して録音に臨むのではなく、スポンテニアスに音楽を生じさせてくれる点だ。そして音楽を〈ちゃんと聴いて〉演奏する。そこにミステリーが存在することにも、演奏しないことにも、抵抗がない。彼らは演奏することと同じくらい、演奏しないことにも前向きだ。そんな彼らに対し、私がすべき仕事はなるべく多くの楽曲を書くことだ」

RON MILES 『Rainbow Sign』 Blue Note Records/ユニバーサル(2020)

 前作はロン・マイルス自身がトランプ政権誕生に伴う人種間緊張に留意するなかから曲が作られ、今作は死を間近に迎えた父親との関わりから曲が生まれた。それゆえ、本作のほうが内省的な曲調が多いと指摘できるかもしれないが、絶妙にソロを開くマイルスをはじめとする面々はより一歩深いところでこの5人でしかないインタープレイを成り立たせている。

 鋭敏なジャズ精神と今様なストーリーテリング性を抱えた、『レインボー・サイン』 。当然のことながら、同作は2020年屈指のジャズ・アルバムになると思わされる。そして、そんな逸品は、新たにブルーノートとディールを得てのものとなった。

 「アルバムを作り終えた数週間後、ビル・フリゼールがこれを(ブルーノート社長の)ドン・ウォズに聴かせていいかなと言うんで、もちろんと答えた。そしたらドンからリリースしたいと連絡が入ったんだ。そんなこと予想してなかったので、誰より私が驚いた」

 まだまだ、今のジャズを取り巻く良心は生きている。

 


ロン・マイルス (Ron Mailes)
1963年インディアナ州インディアナポリス生まれ。デンヴァー大学、マンハッタン音楽学校で学ぶ。86年に 『ディスタンス・フォー・セーフティ』を発表し、その後、〈プロリフィック〉〈カプリ〉〈グラマヴィジョン〉などのレーベルからリーダー作を続々とリリース。現代のジャズ・シーンで活躍するアーティストの中でも、最も優れた即興演奏家、作曲家の一人。ジョシュア・レッドマン、ビル・フリゼール、マーサー・エリントン、ジェイソン・モランなど数多くのアンサンブルにも参加している。