あいみょん “桜が降る夜は” こんなにも人に会えない中で、私たちは春を覚えていられるのだろうか

2021.03.09

春は別れの季節とは言うものの、自粛が続くこの世界では、別れの悲しみを味わうことすらできない日々に強い虚しさを感じる。そんな浮足立つ私たちに、一足先に春を纏ったあいみょんは新曲を届けてくれた。そこには〈この体ごと貴方に恋してる〉という言葉を始め、作詞した本人でさえも驚くような瑞々しい純粋な愛が敷き詰められている。その一方で、瞬く間に訪れる桜の散り際のように〈考えている間に春は終わる〉と儚さも言葉にしていて、どこか寂しさも感じられる。まるで春のように過ぎゆく愛は、美しくもあり切なくもあり、季節にぴったりなラヴソングである。最初はそう感じていた。

だが山田智和監督によるMVを観て、この寂しさの本当の意味が分かったような気がする。現代、これほどまでに〈人に会う〉ことの障壁が高くなり、〈恋をする〉ということにおいてもこれほど我慢を強いられた時間はあっただろうか。〈会いたい人に会えない〉ことがここまでの絶望をもたらすと誰が思っていたか。私たちは春を覚えていられるのだろうか。

人が絶えず息をしていたはずの新宿で撮られたこの映像には、閑散とした夜の中を一人で揺れるあいみょんが映し出されている。明かりの見えない暗闇の中、春を身に纏う彼女からは、どこか〈このまま春を手放してたまるか〉という意思を感じられる。もどかしい毎日であろうとも、愛と踊り、夜を唄い、私たちに春を届けるため、あいみょん自らが鮮彩な花を咲かせてくれているのだ。

いつか終わりを迎える春・夜・愛を楽しむあいみょんのように、鬱屈な日々のなか、この音楽が流れている間だけでも桜色に身を包み、暖かな気持ちを思い出してみてもいいのかもしれない。

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