唇に〈うた〉が贈られた瞬間の歓びが思い浮かぶような童謡集。
奇しくも童謡生誕100周年に当たる2018年の5月生まれ、昨年の第35回童謡こどもの歌コンクールで史上最年少の銀賞を射止め、3歳直前の5月26日に〈2歳最後の歌声〉を収めた1st.ソロ作品集が発売されるののちゃん(村方乃々佳)。その愛くるしい肖像と驚異的な歌唱力、並外れた天性のピッチ感覚と独特のリズム感、持ち歌への集中力と本人のこだわりぶりに関しては昼のワイドショーで知った。昨年末、身長84cmで臨んだ“いぬのおまわりさん”の銀賞動画がYouTubeに載ると国を超えて大反響。スタジオ録音の本作でも同曲を生楽器の奏者陣と一発で決め、ねこふんじゃった奏者として著名な小原孝(ピアノ)との共演でも堂々とワン/ニャン歌を歌い分けている。“すうじのうた”は昭和32年に高松りみ子 (当時3歳)が歌い、同社から発売された所縁の童謡だが、本作収録で最年少記録が更新される。
YouTubeで検索すると件の受賞動画をはじめ、あいみょんの“裸の心”をテイク毎の表情の違いで魅せてくれる自宅映像も愉しめる。なかでも2歳5カ月で銀賞獲得までの軌跡を編集した「☆こうやって歌を覚えたよ♪」はお薦めの天才成長史。0歳8カ月で玩具ピアノを顔で弾く貴重映像はセシル・テイラーも吃驚の記録だ。9か月目で音楽に体を揺らし、10か月目でマラカスのリズムも合い始め、マイク片手に簡単なフレーズのタイミングが揃い出すのが1歳7か月、その4か月後にはメロディーに乗せて歌詞を口遊めるまでに……〈愛くるしい〉の一言では括り切れないカノジョの進化過程を追ううち、気づかされたのは(TikTok育ち特有の!?)振り共々のリズミカルで歌版ユーモレスク的小品性の痛快な面白さ、それこそColman/Ayler/Kirk等の世界をも連想させる匿名性と独自性の共存感覚だった。事実、本作のデモ音源と各種動画を堪能した夜、Mambo Boogieを特集した細野晴臣のラジオ番組を聴取中も終始、かかる選曲と〈奮うののちゃん〉の残像が脳裡で重なって苦笑した。いつか〈ののちゃん、ロンバケを歌う〉なんかも聴いてみたい、とも想った。歌う歓びが溢れる1枚。