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からっぽペペロンチーノの主役はrankoの歌声

――『Who By Empty』は、ファースト・アルバム『からっぽペペロンチーノ』から4年ぶりのアルバムとなりますが、バンドにとって、この4年間はどのような期間でしたか?

Ryota「正直に言いますが、僕の本業である音響効果の仕事が忙しくて、この4年間なかなか制作に移れなかったんです(笑)。でも、とても意義のある4年間だったと思っています。多忙な中、隙間を縫って少しずつ作っていったんですけど、そのぶん、その間に今まで聴いてこなかった音楽のジャンルと出会えました。それはサウンドトラック用に作られた音楽で、オーケストラや打ち込みが中心になっているものなど。“スランバー”や“秘密の海”は如実にその影響が出た楽曲だと思います。他の収録曲にも影響は出ていると思いますね。あとファーストより音数も増えました」

――『Who By Empty』は全16曲が収録された大容量のアルバムです。音楽性としては、ギター・ロック然とした曲が多かった前作に比べても、今作はエレクトロ・ポップやヒップホップなども咀嚼し、より音楽性が拡張されています。事前に考えていたことや具体的なコンセプトはありましたか?

Ryota「バンド内で話し合ったことは特になくて。ただ、音楽性に関しては自分で色々と考えました。やれるジャンルを増やしたかったんです。前述したように聴く音楽の幅が広がったので、新しく聴き始めた音楽を自分も作ってみたいなと。実際、音楽性を広げたことにより、制作の楽しみが増えました。

個人的には、サウンド・エフェクト(SE)を入れてみるのも挑戦の一つでしたね。実際に自分で録音をしたSEを入れてみたり、DAWのライブラリーにある普段は使わないようなパッドの音を入れてみたり。あとは〈捨て曲がないアルバム〉にしたいとも思っていました。どの楽曲がシングルになってもおかしくないようなアルバム。結果的に今までに作ったことのないような音楽を作ることができたし、今まで得意としていたロック曲もアップグレードできて、満足感は高いです」

――Ryotaさんは先日、ヴォーカリストのsawamayさんとのユニット〈sawamay〉として、山本幹宗さんをサウンド・プロデューサーに迎えたデジタル・シングル“ブルーノート”をリリースされていました。sawamayとからっぽペペロンチーノでは、棲み分けはありますか? また、Ryotaさんがからっぽペペロンチーノの楽曲を作る際に最もこだわるのはどういった部分ですか?

sawamayの2021年の楽曲“ブルーノート”
 

Ryota「大きな棲み分けはしていませんが、からっぽペペロンチーノは僕がsawamay以上に主体となって音楽を制作していますので、そこが違うかなと思います。ただどちらとも、ヴォーカリストの歌声が主人公になるように心がけています。なので、からっぽペペロンチーノで一番こだわっているのはrankoの声が際立つ楽曲にすることです。

こだわりの二番は、歌詞の世界観を表現した音楽を作ること。僕の中ではヴォーカルと歌詞がとても大事で、音楽はその立役者になるようにしたいんです。あと、音楽的なこだわりは、それぞれの楽器を邪魔しないことですかね。最終的に楽器を間引くことも多いです。ミックスではしっかりLRを鳴らせて広がりを持たせつつ、主役の音がちゃんと聴こえるように心がけています」

 

日々の生活で芽生えた小さな感情を歌う

――歌詞は伊藤さんとRyotaさんがそれぞれ書かれていますが、どちらが歌詞を書くのかはどのようにして決めるのでしょうか?

伊藤「基本的に詞先での制作なので、お互いが歌詞を持ち寄ってそこから選んで曲になるって感じです。曲になったけど〈なんか思っていたのと違うね〉ってボツになることもあります(笑)」

――『Who By Empty』の歌詞は、社会や時代を大きく描写するものではなく、孤独な個人の心象風景が言語化されているものが多いように感じられます。伊藤さんとRyotaさんは、それぞれ歌詞を書く際に自分自身のどういった感情やイメージを言葉にしていますか?

伊藤「僕は、日々の生活での孤独や煩わしさを歌詞にするのが多いですね。『Who By Empty』では社会などの大きい括りでは無く、その中に一個人がいるというイメージを意識しました」

Ryota「僕は日常を過ごす中で思ったことを歌詞にすることが多いです。誰かに対して思ったことや、自分に降りかかったことに対しての心情とか。そのときの風景を、目を閉じて思い出して書きます。今作には、数年前に書いた歌詞も中にはあるんですが、(その時期の歌詞は)ちょっとネガティヴなんですよね……(笑)。例えば“Room No.311”や“世界の手のひら”がそう。その頃はかなり暗かった時期だったのでマイナスな感情が多く、でも、そこが人間らしいなと思って入れました。

最近書いた歌詞はわりと明るいと思います。明るい歌詞も暗い歌詞も、どちらにせよ、自分の心情を正直に書いていますね。ただ、恋愛に関しては世の中で歌われ過ぎているので、自分にしか恋愛のことだとわからないような表現をしています。もし楽曲を聴いていただいて、誰かが共感してくれたら嬉しいですね!」

――伊藤さんとRyotaさんそれぞれが、今作のなかで最も自分自身の人間性や、あるいは作詞家としての志向性を象徴していると思う曲を挙げてください。

伊藤「〈こういうシーンあったら画になるなぁ〉とか、〈こんな事を考えてたら素敵!〉というところから作ることが多いので、そこをうまく描けた“春よ、来るな”ですね。〈あー、こういうの好きなんだー〉と思って聴いてください(笑)。その上で共感していただけたら嬉しいです」

『Who By Empty』収録曲“春よ、来るな”
 

――〈春よ、春よどうか来ないで/あの人の制服脱がさないで〉と歌う“春よ、来るな”の歌詞は、どうしようもなく変化していく季節と、簡単に変化を受け入れることのできない人の気持ちの対比が切なくて、どこか幻想的でもある描写が美しいです。

伊藤「ありがとうございます。もう一曲あげるとすれば“ムジカ”ですね。この曲はシングル曲の“雨に唄えば”の登場人物が、“雨に唄えば”を作るまでをテーマにしたのですが、こうやって別々の曲が少しリンクする感じはまたやってみたいと思います」

『Who By Empty』収録曲“ムジカ”
 

Ryota「僕は“Room No.311”ですかね。ネガティヴとポジティヴのバランスの取り方や、自分のこと書いている内容から、〈らしいな〉って感じがします。ちなみに〈311〉というのはからっぽペペロンチーノの結成した3月11日のことで、僕とrankoが初めて会った日です。からっぽペペロンチーノと自分のことを思って書いたので、この数字を入れてみました」

『Who By Empty』収録曲“Room No.311”
 

――rankoさんは、伊藤さんが書く歌詞とRyotaさんが書く歌詞に対して、それぞれどのような印象を抱いていますか? また、今作『Who By Empty』のなかでrankoさん自身が歌詞の面でシンパシーを感じた曲は?

ranko「伊藤さんの歌詞は物語というか、小説を読んでいるような感覚になるものが多くて、心が落ち着きます。Ryotaさんの歌詞は〈あー、それ落ち込んでるときの私!〉というふうに、自分に落とし込むことができる歌詞が多いなと思います。

シンパシーを感じる歌詞だと、“Room No.311”の〈少年が語った夢は意識の奥底に閉じ込められた 毎日現実とにらめっこ気づけば夢を語らなくなっていた〉という部分です。子供の頃は夢っていっぱいあって、語ることも恥ずかしくなかったと思うんです。でも大人になると夢がどんどん減り、人に夢を話すこともなんだか恥ずかしいことに思えて、現実的に生きていくだけみたいになっちゃって……。まさしく、そんな自分にドンピシャな曲です。子供の頃の夢は叶えられてないけど、〈大人の今も楽しいよ!〉と過去の自分に言えるようにしたいですね!」