かつてボカロP、Novelとして活動し、その後は大倉明日香(ASCA)への楽曲提供なども行ってきた音楽家のRyotaを中心に、ヴォーカルのranko、作詞を担当している伊藤真人の3人で2016年に結成されたバンド〈からっぽペペロンチーノ〉。彼らが、2017年にリリースされたファースト・アルバム『からっぽペペロンチーノ』以来となるセカンド・アルバム『Who By Empty』をリリースする。〈同人ネット系バンド〉と自ら名乗っている通り、これまでフィジカル音源の販売は同人系のイベントやわずかな店舗を通して行われていたようだが、今作はタワーレコード限定でのリリース、つまり初の全国流通盤となる。

恐らく、この変わったバンド名を“ブルースカイブルー”(2019年)や“エンドロール”(2020年)といったアップアップガールズ(2)への楽曲提供で目にしたことのある人も多いだろう。本作『Who By Empty』には、そんなアプガ(2)にもカヴァーされた“雨に唄えば”をはじめ、ギター・ロック、エレクトロ・ポップ、果てはラップまで、様々な音楽性を咀嚼した全16曲が並んでいる。どの曲も、編曲からミックスまで手掛けるRyotaの繊細なサウンドメイクと、1曲の中で豊かな情緒と物語を喚起させる歌詞、そしてrankoの瑞々しさ憂いを内包した歌声が混ざり合うことで独自の世界観を構築している、高精度のポップソングだ。

今回、〈からペペ〉のメンバー3人にメール・インタビューで質問を投げかけ、アルバム『Who By Empty』についてはもちろん、未だ謎の多い3人のパーソナリティーについても大いに言語化してもらった。

からっぽペペロンチーノ 『Who By Empty』 FABTONE(2021)

 

ペペロンチーノの音の響きって良いよなぁ

――アレンジやミックスまでを手掛ける作曲家のRyotaさんに、ヴォーカリストのrankoさん、そして作詞家の伊藤さんという3人によって構成されるからっぽペペロンチーノは一概に〈バンド〉といってもかなり変則的な編成だと思いますが、どのような経緯で結成されたのでしょうか?

Ryota「僕は専門学校在学中に、就活で出会った人に勧められてボカロ制作を始めました。そのときに、専門学校の同級生で作詞コンペなどに応募していた伊藤を誘ったんです。僕自身、元々ボカロは高校生の頃に聴いていたけど特に影響を受けていたわけではなかったし、結局、僕たちのボカロ楽曲は伸びが悪かったのですが(笑)。その後、生歌の楽曲を作りたくなり、ニコニコ動画の歌い手さんで、歌声が良いのに再生回数が伸びていない人を探して、rankoに声をかけました。たまたま関東近郊にrankoが住んでいたのも大きかったです」

――〈からっぽペペロンチーノ〉というバンド名は、どのような理由で付けられたのでしょうか?

ranko「結成するとなったとき、ファミレスでバンド名を考えていて、そのとき食べていたのがペペロンチーノだったんです。〈ペペロンチーノの音の響きって良いよなぁー〉というところから〈ペペロンチーノ〉が決まり、〈からっぽ〉の部分は、その場のテンションで〈頭にからっぽと付けたら更に良い!!〉となったのがきかっけです。特に理由はなくノリですね(笑)」

2017年作『からっぽペペロンチーノ』収録曲“星降る夜に”
 

――3人それぞれの現在に至るまでの経歴を教えてください。

Ryota「僕は13歳の頃に、当時の同級生に誘われてギターを始めました。中学生の頃から東京で音楽関係の仕事をしたいと思っていて、音響の専門学校に通うようになり、そこでDAWの基礎を学びました。当時からミックスの作業が好きだったのもあって、その練習用の素材を作るために作曲を始めたんです。そして20歳の頃から、作曲をしながらレコーディング・スタジオのバイトや機材関係、レーベルなど音楽業界で働いていて、現在は映像の音響効果の仕事を本業にしています。でも、頭の片隅には常にからっぽペペロンチーノがあります。出会った音楽をからっぽペペロンチーノに昇華できないかなと、いつも考えていますね」

伊藤真人「僕は、卒業後に街でたまたまRyotaと再会して、ニコニコ動画で一緒に活動することになり、今はそれがからっぽペペロンチーノという形で続いているって感じですね。作詞に興味を持ったのは、元々音楽が好きで中学生のときにギターを買ったんですが、例に漏れずFコードで挫折しまして、そこから〈作詞って楽器いらないな〉と思ったのがキッカケです。今になって思えば極論すぎるなぁ、と思います(笑)」

ranko「私は高校生のときにネット上での歌の活動を始めました。俗にいう〈歌い手〉的なやつですね。ただ、活動頻度は多くないので、今までで数えるほどしか〈歌ってみた〉動画は上げていません。そんな中、私を見つけてくれたRyotaさんには感謝です。今はほぼ個人での活動はしていなくて、からペペの活動のみとなります。

そもそも歌を始めたきっかけは、友達が教えてくれたニコニコ動画の存在に凄く衝撃を受けたことです。我が家では音楽はあんまり生活の中になくて、子供の頃は歌に興味がなかったんですけど、ニコ動と出会って、素人の人が色んな音楽をカヴァーしている様子を見て、〈歌手の人じゃなくても、歌っても良いんだ!〉とびっくりしたのをよく覚えています。それが私の歌へ対する興味の始まりで、好きになったきっかけです。なので、当時の友達には感謝ですね。ニコ動を教えてくれてなかったら、私はからぺぺにいなかったかもしれないです……!」

 

同人=好きなものを自由に表現できる

――それぞれのルーツとなる音楽と、最近好きな音楽を教えてください。

Ryota「小学校の頃はORANGE RANGEのような流行の音楽を聴いていました。中学から友達や兄の影響でよくバンドを聴くようになり、BUMP OF CHICKENやRADWIMPS、Hi-STANDARD、Dragon Ashなどを聴くようになって。高校生になるともっと幅が広がり、様々な音楽を聴くようになりましたが、主に国内の音楽が好きでしたね。上京してからは海外の音楽も多く聴くようになりました。ルーツといえるのは、RADWIMPSと自然の敵Pです。で、最近好きなミュージシャンの方は藤井 風さんです。ずっと聴いています。聴く音楽は、ジャンルを問わず雑食だと思います(笑)。仕事の関係でサウンドトラックを聴くこともかなり多いです」

伊藤「僕はロックが好きなのですが、Ryotaがおすすめしてくれるので基本的に色んなジャンルを広く浅く聴いています(笑)。フジファブリックと阿久悠さんの詞が大好きで、歌詞だけ読んだりします。漫画や小説を読むことも好きなので、その辺にはがっつり影響を受けていますね」

ranko「私は、これまた友達の勧めでアニメが好きになって、そこからアニソンが好きになって音楽を意識して聴くようになりました。なので、私の音楽のルーツはアニソンですかね。その後もずっとアニソンばかり聴いてきたので、からぺぺ結成までは本当に流行りの音楽に疎くて……。でも、からぺぺを結成してからはRyotaさんからおすすめだったり、流行りの音楽を教えてもらったりして、すごく音楽の幅が広がりました! 最近はアニソンやJ-Popはもちろん、洋楽、ロック、K-Pop等々、なんでも聴いています!」

――Twitterのプロフィール欄では自分たちを〈同人ネット系バンド〉と形容されていますが、からっぽペペロンチーノにとって、〈同人〉とはどういった意味合いを持つ言葉ですか? 

ranko「同人界隈って、〈自分の好きなことを自由に具現化してみました!〉みたいな感じだと思うんです。自由に自分の好きなことを表現することができているからこそ、本当に色んな人たちがいるし、色んなジャンルの作品がある。だから、我々も〈のびのびと自由に音楽を作っていこう!〉となるし、凄く刺激がある場だと思います。まさかタワレコさんでCDをリリースできる日が来るとは夢にも思っていませんでしたが、これからも我々の音楽を作っていくスタンスは基本変わらず、自由に音楽を続けていたいと思っています!」

伊藤「僕も〈同人=好きなもの自由に表現できる〉という意味合いで捉えています。自分たちの中で良いと思うものをやってみるスタンスなので、その中での音楽活動はとても楽しいです。これからも〈同人ネット系バンド〉としてスタンスは変えずに活動していきたいです」