ソロ・デビューから5年、変わり続ける彼女の〈今〉
〈ラブライブ!〉の南ことり役、そしてμ'sとしての活動が大きな反響を巻き起こしていた最中の2014年11月にアルバム『アップルミント』でソロ・デビューし、甘さも艶やかさも自在に使い分ける声優ならではの表現力と、感情を乗せたうえで安定感も備えた確かな歌唱力、可愛らしさを追求したガーリーな世界観で、シンガーとしての個性を確立してきた内田彩。2018年には当時の持ち曲である50曲すべてを収録した3枚組『AYA UCHIDA Complete Box ~50 Songs~』を発表してそれまでのキャリアを総決算した彼女が、デビュー5周年を迎えた今年、通算4枚目のアルバム『Ephemera』で、新たな表情を見せてくれます。
所属レーベルだったZERO-Aが今年3月に活動休止したことを受けて、体制を一新して作り上げたという本作。その変化はリード曲“DECORATE”にも色濃く表れていて、楽曲提供したのは過去にも“Yellow Sweet”“with you”といったフロアライクな人気曲で彼女のアーティスト・イメージを更新してきたhisakuniですが、今回は今までに比べるとあきらかにビターなファンク・ポップで、主役の焦らすような歌い口には大人の恋の駆け引きが滲んでいます。今にも消え入りそうな儚さにこちらの心も揺れる“カレンデュラ、揺れる”もこれまでになく切なさが募るナンバーで、そこから彼女の楽曲では珍しい〈ボク〉という一人称とシリアスな声音で新境地を拓いた“Inferior Mirage”、叫びにも似たミックス・ヴォイスが最高の効果を生むエモーショナル・ロック“ANSWER”、青春の焦燥を形にしたような“グロー”や“ソレイユを臨んで”と、バンド・サウンドを中心としたアプローチが続くのも新機軸。
そこから、彼女が歌唱を務めた「アイマリンプロジェクト」の楽曲に通じる爽快なエレクトロ・ハウス“Beautiful world”を挿み、TVアニメ「五等分の花嫁」のエンディング曲だった90s歌謡テイストのシングル曲“Sign”とそのカップリングだったキュートなエレポップ“Candy Flavor”を経て、最後はストリングスが美麗なフューチャー・ポップ“リボンシュシュ”で本来の彼女らしいスウィートな世界に着地する構成も見事です。〈一時的、儚く刹那的な記録〉を意味するタイトルの通り、『Ephemera』は変わり続ける彼女の〈今〉を切り取った作品と言えるでしょう。 *流星さとる
内田彩の作品。