プラネタリウムで聴くバッハ・プロジェクトを語る

 一晩の変化する星空のさま、およそ40分。そのあいだにバッハ“平均律”のプレリュードとフーガ1セットが。毎月、すこしずつ変わってゆく星々の位置を、またべつのセットとしながらつづくプロジェクト。

――現在進行形、ですね。

「5月末時点では、第1巻のNo5のD-durのプレリュードとフーガまで、計10曲が完成しています。プログラムは、その時々に合わせて、例えばNo1のC-durのプレリュードが新作の中に挟み込まれたり、変化しますが、基本的には順次公開です。第1巻全曲を1年半かけて制作・公開の予定です」

――たとえば星座にあわせて曲が、というのでありません。ちょっときこえてくる2つや3つによる音(のかたち)から、ひとつの楽曲がどのようにできているのか、ふつうに聴いたり弾いたりしている曲のつくりが、あ、こういうことなのか、と感覚的に、また知的に、腑に落ちる。そんな絶妙な〈構成〉になっている。

「バッハには、一瞬の縦の響きが生み出す複雑なハーモニーや音色の魅力を感じます。構築する側としては、対位法の異なる面が見えてきたというのもあります。音楽における横の時間軸のラインをコントロールするということは、常に縦の響きを意識することで、水平と垂直の意識が常に同時進行する。そこには調性というテーマが絡んでくる。主となる調性によるテーマがあり、それに対して、関係の深い調で同じテーマを出し、対旋律をつける。曲が進行するにつれ、メジャーで始まったものがマイナーに変化したり、テーマが複雑に畳み掛けるように折り重なって出てくるとか、緊張と、凝縮度が変化したりと、いろいろな音楽的ドラマが展開される。調が変化していく、というのは、場が変化するような、一種の音楽的な旅、冒険、のようなところがありますね」

 星々のゆっくりゆっくりうごいてゆくさまと音楽は、〈わたし〉〈わたし-たち〉をはなれ、猥雑なことどもを忘れさせ、宇宙や時や生命への思考へと誘いださせる。宇宙のありようをmusicaと呼んだ人びととおもいを、21世紀現在でも共感させてくれる試み、か。

――〈編曲〉ではなく、空間音響としての再構築といういい方をされています。

「それぞれの曲の調性とキャラクターを、自分がどう解釈するか。編曲することとの違いとしては、〈ドームという特異な空間で、どのような空間音響体験にするか〉という出発点があり、そのため解釈にも大胆さが必要でした。曲ごとに架空の状況設定を作り〈バッハの平均律をきっかけにしか生まれ得なかった時間と空間を作る〉のが目的になったのです。平均律第1巻が完成したのが1722年と言われていますが、300年前に書かれた暗号のような、一種数学的な関係性に基づいた振動のための指示書、とも言える聖典を紐解く、そんな気持ちで取り組んでいます」

 


バッハ平均律クラヴィーア曲集 第1巻 22.2ch remix
空間音響作家・宮木朝子が楽曲の一音一音を解釈し、バッハの意図を空間として再構築しようという壮大なプロジェクト。1年半をかけてその第1巻全48曲(24の前奏曲とフーガ)を立体音響化し、公開をしていきます。その日の星空と共に上演をいたします。24個のスピーカーが奏でる古典の新解釈をお楽しみください。

日時:毎日13:05~、17:05~(1時間上映)
開場:コニカミノルタプラネタリアTOKYO『星空ラウンジ』内
料金:プラネタリア TOKYOで上映されている作品の当日券をお持ちの方、星空パスポートをお持ちの方および小学生以下の同伴者は、自由にご鑑賞いただけます
※「星空ラウンジ」は1,500円の星空パスポートを購入すると1年間何度でもご鑑賞いただけ、毎月リリースされる曲を聴くには大変お得です。詳細はウェブサイトをご確認ください
https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/bach222ch/

★〈LIVE in the DARK -CLASSIC-〉も上映中
名曲“月の光”や“ジムノペディ”をピアノ・カルテットで。
ドビュッシーやサティが暮らした、189年代当時のフランスの星空の下で、ピアノカルテットの生演奏を楽しむプログラム。プラネタリウムでしか味わうことができない“目と耳で楽しむ”クラシック演奏会をご体感ください。
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/program/classic/

コニカミノルタプラネタリア TOKYO
TEL:03-6269-9952(受付10:00~19:00)
東京都千代田区有楽町2丁目5-1 有楽町マリオン9階
有楽町駅より徒歩3分
https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/