ポスト・ロックの名盤と評された初作から、よりエレクトロニックな表現へと研ぎ澄まされていった3人が13年ぶりの新作を完成! 独特の〈バンド感〉を持つ彼らがいま目を向けているサウンドとは……?

メンバーとは一度も会わず

 名古屋発のインスト・バンド、ALL OF THE WORLD(以下、ALLs)が実に13年ぶりの新作『lull』を発表する。90年代のUSローファイ・シーンから影響を受けた宅録バンド、Helicopterを前身に、2000年に5人で結成されたAALsが2004年に発表したファースト・アルバム『the dance we do』は、国産ポスト・ロック/エレクトロニカの名盤として高く評価されている。

 「もともとリスナー気質が強いんです。90年代はジャンルにこだわって音楽を聴くことに無理があるというか、当時はモロに10代だったし、USオルタナから始まってテクノやドラムンベースなんかの、次々と花開いていく音楽のすべてが新しく、カッコイイものに感じて、楽器を触るよりは何か聴いてたかな。でもやっているバンドやプレイヤーとして影響が大きかったのは、佐々木敦氏がレコメンドしていたエレクトロニカや、シカゴ系と呼ばれたスリル・ジョッキー周りのサウンドでした」(大島祐介)。

 「僕は当時ドラムを叩いてはいたんですけど、カート・コバーンが死んだ日にロックは終わったと思って、ミニマル・テクノのDJをやったりしてました」(鬼頭裕哉)。

 「僕はちょうどバンドに誘われた頃に買った竹村延和の『Meteor』がいまだに人生の一枚と言ってもいいくらい好きで、バンド・サウンドじゃないけど、〈こういうバンドをやりたい〉と思ったのをよく覚えてます」(土江佳弘)。

 その後に現在の3人体制へと移行し、バンドでのスタジオワークから打ち込み主体の作風へと移行。エレクトロニクスの割合が増え、よりダンス・ミュージックに接近した2作目『Finesse』(2008年)を発表した。

 「腕を組んでゆらゆらしてるポスト・ロックのお客さんの前でやるよりも、クラブに行って、お酒飲んで〈イェー!〉って言ってるほうが楽しいなと思って、それが音に出てますね。でも、それって結局は同族嫌悪で、僕らはやっぱりナードで、ロック周りともクラブ周りとも完全には相容れない。どこにも属せない感じは常にありました」(大島)。

 「僕はDJヴァディムのファーストが大好きで、他にもディアンジェロ、J・ディラ、マッドリブ、日本だとTsuki No Waさんとか、ヒップホップ的な、隙間のある音楽が好み。でも、もともとのルーツにあるのがペイヴメントとかなので、そういう自分から遠いものだったらいくら影響を受けても絶対別モノになる自信があったんですよね」(土江)。

 『lull』は大半の曲が大島のトラックをもとに制作され、ミックスは過去作同様に、近年は中村佳穂との仕事も話題の荒木正比呂(レミ街)、マスタリングはポール名義で知られるベルリンのステファン・ベトケが担当。コロナ禍のリリースであり、アートワークは上野英里によるBLMのデモ行進をモチーフにした作品ということもあって、久々の復活にドラマ性を期待する向きもあるかもしれないが、メンバーはどこ吹く風。新作のリリースに〈明確な動機やきっかけは特にない〉と言う。

 「2017年頃に自宅の制作環境をいろいろと整備したんですけど、その頃からレーベルに頼まれて、〈YouTube用のライヴ動画の音を軽くマスタリングして〉みたいな業務をするようになってました。なので、曲を作る気はなかったんですけど、シンセのフィルターの開け閉めとかだったら一日中やってても飽きないし、そんなことをダラダラやってるうちに、曲と思しきものになってきて。それを何かのはずみでレーベル・オーナーに聴かせたら、〈出そうか〉となって、そこからもっとちゃんと曲にしていきました。1回集まって鬼頭君のドラムを録ろうと思ってたんですけど、コロナで集まれなくなっちゃって、今回の制作でメンバーとは一度も会ってないんです」(大島)。

 「なので、今回僕は何もしてません。完全に大島君にお任せ」(鬼頭)。

 「もともと演奏することに執着がなくて、若い頃はソロを弾くのも絶対嫌だったし、そういうアンチ・ロック的なところもある。普通のバンドとは違うんです」(土江)。