©ROSS HARRIS

 ピッチの修正が間違っているのでは?と思ってしまう素っ頓狂でとぼけたヴォーカル。少し奇異な印象を覚えつつも聴き進めるごとにじわじわと感触が変化、歌声に元から備わっている〈愛嬌〉をふと見つけてしまってからというもの、瞬く間に気になって仕方ない特別な存在と化してしまう。そんな不思議な魅力を持ったコーラ・ボーイが奏でるファンクの独自性を如実に浮き彫りにしてみせるのが、待望のファースト・アルバム『Prosthetic Boombox』だ。

COLA BOYY 『Prosthetic Boombox』 Record Makers/Pヴァイン(2021)

 カリフォルニア州オックスナード育ちのマルチ・インストゥルメンタリスト、マシュー・ウランゴによるこのソロ・ユニットの名を有名にしたのは、エールのニコラス・ゴダンが主宰するレーベル、レコード・メイカーズから2018年にリリースされたデビューEP『Black Boogie Neon』。ポップでキャッチーなディスコ~エレクトロ・サウンドが耳ざといリスナーたちの間で評判を呼び、MGMTやマック・デマルコのオープニング・アクトに起用されるなど次第に認知度を上げていく。最近ではアヴァランチーズの最新作『We Will Always Love You』に客演、ミック・ジョーンズと共にフィーチャーされた“We Go On”において記憶に残る活躍を披露していたコーラ・ボーイだが、ゲストの豪華な顔ぶれも話題となっている今回のアルバムによって、さらなる脚光を浴びることになるだろう。

 あと、ことさら強調することではないけれども、彼には先天的な二分脊椎症による内反足と脊柱側湾という障害があって、肺の気道が通常の4分の1程度しかないハンデを背負っている。しかし彼の音楽に悲観的な眼差しは全然見当たらない。いつだって誰彼関係なくオープン。色濃く滲んでいるのはそういった姿勢であり、彼の音楽が持つ何とも言えない人懐っこさに通じていると言っていいだろう。

 アルバムでは、アヴァランチーズが強力にサポートする冒頭のエレクトロ・ディスコ“Don't Forget Your Neighborhood”からして得難い魅力が存分にスパークしている。“Roses”や“You Can Do It”などのファンク・チューンもすこぶるゴキゲンで、メロディー、ハーモニー、リズムのいずれにおいても非凡なセンスをアピールしており何とも嬉しくなる。とにかくフロア受けしそうな高性能のダンス・チューン揃いであるが、どこを切ってもそこはかとない温かみが感じられる点、何よりも心惹かれるのはそこであり、きっと誰もがアルバムを聴き進めていくにつれて彼のことを愛さずにおれない理由を探りたくなる気持ちが抑えられなくなるはず。そして終盤に差し掛かると、渋い光沢を放つミディアム~バラード系が登場するのだが、これがまたいい。

 白眉はエンディングを飾る“Kid Boy In Space”。MGMTのアンドリュー・ウェルズ・ヴァンウィンガーデンをフィーチャーしたこの曲でのマシューの歌声には、ミステリアスな透明感とでも言うべき特徴的な佇まいがある。それにしてもこの異形のソウル・フィーリングがもたらす不思議な感覚はちょっと言葉にしづらくて何とも厄介だ。

 とにかくユニークなことこのうえないこの逸材。音源だけでなくMVもインパクトがあるものばかりなのでぜひチェックしてみてほしい。なかでも最高なのは、デビューEP(今回の日本盤に全曲がボーナス収録)のリード曲“Penny Girl”のMVで、吹き溜まり感満点(失礼!)なホームタウンの風景のあちらこちらにマシューを置いて撮ったホームメイドな映像作品なのだが、彼の音楽作りのインスピレーションがどこから湧いてきているのかまでも手に取るようにわかる内容となっており、今回のアルバム『Prosthetic Boombox』を正しく解読するうえでの手助けになると思う。それと、マシューがいったいどんな人々に愛されながら日々暮らしているのか、そこもまた要確認ポイントだ。

 


コーラ・ボーイ
カリフォルニア州オックスナード出身のシンガー/マルチ演奏家、マシュー・ウランゴのソロ・プロジェクト。ヒスパニックやネイティヴ・アメリカンの血を引くマルチ・カルチュラルな環境で育つ。ニコラス・ゴダン(エール)主宰のレコード・メイカーズに見い出され、2018年にEP『Black Boogie Neon』を発表。同作がインディー・シーンで脚光を浴び、翌年には〈コーチェラ〉に出演、マック・デマルコのサポートも務める。2020年にはゴダンの“The Foundation”やアヴァランチーズ“We Go On”に客演。“Don't Forget Your Neighborhood”などの先行カットも注目を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Prosthetic Boombox』(Record Makers /Pヴァイン)をリリースしたばかり。