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アルバム『Last Afternoon』について

ジェイムズ・ハッドフィールド「今回のアルバムはこれまでの作品から完全に脱却していると思いますか?」

渡邊「通底するものはあると思いますが、このアルバムはここ数年弦楽器の演奏者たちと活動してきて、それは私自身の活動だけではなく、映画音楽などの仕事も含めてですが、彼らの演奏を念頭に置いて書いてきた曲集になります。それをパーソナルな作品に落とし込んだ感じです」

ジェイムズ・ハッドフィールド「そのパーソナルな部分というのはどういうことになりますか?」

渡邊「今回、自分でアニメーションを作ったのですが(笑)、自分が存在しない空間で鳴っている音というアイデアがあって、作曲に先行してそのイメージをアニメーションで具体化してから作曲するという変なプロセスだったんですけど(笑)」

ジェイムズ・ハッドフィールド「つまりアニメーションが先にあって、それから音を作ったということですか?」

渡邊「そうですね」

ジェイムズ「すごいな」

渡邊「あのアニメーションの感じが音楽にフィードバックしてたりインタラクティヴになった結果といいますか。あとはコンピュータと弦の演奏の関係性を追求していきたいなと……」

ジェイムズ「そのストリングスとソフトウェアの関係性が気になっていました。例えばアルバムの中で弦楽器のピッチが不安定になる曲がありますが、それが演奏者の演奏によるものなのかソフトウェアによるものなのか分かりませんでした。そのプロセスを話してもらえますか?」

渡邊「あの弦のピッチが不安定なのは、各弦奏者が演奏で行っているのでコンピュータで作ったものでは全くありません」

ジェイムズ「そうなんですか!?」

渡邊「譜面の特定の小節内に、微分音で書かれた音と通常のピッチで書かれた音が混在している為に、演奏上の指標性が一時的に失われることで生じる響きですね。要するに演奏が不安定なんです。作曲開始当初そういう演奏から派生するエラーのニュアンスと、コンピュータの音響処理の不確定性には何かしらの親和性があると考えました。その着想を得て、弦楽とコンピュータによるアンサンブルを主旨とした作曲を始めました」

ジェイムズ「自分が作った曲を他のプレイヤーに解釈してもらうと、ご自身が思っていた音と違う音が出てきたりするのでしょうか?」

渡邊「その期待していなかった音の方が、結果的に自分のイメージに近いような気がしてきます(笑)。以前、大分県で弦楽器の演奏経験が全くない方々と弦楽アンサンブルを作って、新作の初演を行うという公演企画を行ったのですが、その際、演奏者にお渡した譜面というのが、音符に特化しない方法で音の情報を含有しているようなもので。要は、その譜面に沿って演奏すれば曲自体は具体化するのですが、当日の公演がはじまったらもの凄い音像というか、聴いたことがないようなテクスチャーが立ち現れてきて(笑)」

ジェイムズ「(笑)」

渡邊「あれはそれまで自分が作ってきた音楽、というか自分が関わった音楽の中で一番面白かったですね。各演奏者が好き勝手に弾いているわけでも書かれている通りに弾いているわけでもない。不安定な感じです。観客も演奏者もそして作曲者も何が起こっているのかわからない(笑)」

ジェイムズ「(笑)」

渡邊「近々イギリスの弦奏者の方々と新作の初演配信ライヴを行うのですが、演奏者が各々の場所で演奏する音を収録して、後日、編集でひとつのアンサンブルに仕上げて作品を完成させるというアイディアです。この状況下で発想された企画ではありますが、初演が終わるまでお互いの演奏や音を一度も聴くことがないアンサンブルというのも興味深い(笑)」

ジェイムズ「面白くなりそうですね(笑)」

 


渡邊琢磨  Takuma Watanabe
宮城県仙台市出身。高校卒業後、米バークリー音楽大学へ留学。帰国後、国内外のアーティストと多岐に渡り活動。2007年、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアー、28公演にバンドメンバーとして参加。2014年、弦楽アンサンブルを主宰。自身の活動と並行して映画音楽を手がける。近年では、冨永昌敬監督「ローリング」(2015年)、吉田大八監督「美しい星」(2017年)、染谷将太監督「ブランク」(2018年)、ヤング・ポール監督「ゴーストマスター」(2019年)、岨手由貴子監督「あのこは貴族」(2021年)、横浜聡子監督「いとみち」(2021年6月公開予定)、堀江貴大監督「先生、私の隣に座っていただけませんか?」(2021年9月公開予定)ほか。

 


ジェイムズ・ハッドフィールド James Hadfield
イギリス生まれ。2002年から日本在住。おもに日本の音楽と映画について書いている。「The Japan Times」、「The Wire」のレギュラー執筆者。

 


EVENT INFORMATION
渡邊琢磨映像作品展『ラストアフターヌーン』
2021年10月23日(土)~2021年10月31日(日)大分・由布院 アルテジオ
時間:10:00~17:00
入場料:1,500円(企画展1,200円+常設展300円)
お問い合わせ:oitaartcollective@gmail.com
http://www.artegio.com/

オープニングイベント
2021年10月23日(土)大分・由布院 アルテジオ
開場/開演:14:30/15:00
出演:千葉広樹/渡邊琢磨
料金:2,500円

※新型コロナウイルス感染状況により、やむを得ず開催内容が変更になる可能性があります。あらかじめご了承ください