島爺のイベントで体験した貴重な舞台の裏側と〈歌の力〉

 活動10周年を記念した5枚目のアルバム『御ノ字』をリリースしたばかりの島爺が、8月7日にタワーレコード渋谷店の〈CUT UP STUDIO〉でトーク&弾き語りイベントを開催した。来場したお孫さん(ファンの総称)たちに加え、生配信を通して多くの視聴者が見守るなか、司会を務めるレーベルのスタッフに呼び込まれて登場した島爺は、「よくぞ、お越しくださいました」と挨拶。前半のトークは8月1日にZepp Tokyoで行われた〈爆誕前夜祭「挙句ノ宴 -リベン爺-」〉の話題からスタートした。

 コロナ禍を受け、昨年の8月2日から約1年の延期を経て開催された同イベント。現状を鑑み、その日は〈負け試合〉を覚悟して臨んだが、蓋を開けてみれば最大限の規模で集結したお孫さんに迎えられ、チーム島爺も最高のコンディションでステージに臨むことができたとしみじみ語る島爺。ほかにも、初めて迎えたヴァイオリンの須磨和声や、〈お父さん〉と呼ばれる全身タイツを着用したコミカルなパフォーマーについてなど、ときには笑いも交えながら島爺のエンターテイメント性を支える演者について触れ、さまざまな意味で「人に恵まれている」と総括していた。

 続いては、〈爆誕前夜祭〉のリハーサル時の写真をスライドで映しながらバックステージの話題へ。リハといっても本番さながらの演出が施された状態のもので、未公開のライヴ写真と言っていいほどの画が次々と披露されていく。ここではゲストのナナホシ管弦楽団やバンド・メンバーたちの真摯なミュージシャンシップも語られ、ステージ上で見せる関西ノリの軽妙な佇まいとのコントラストが明るみに。かと思えば、お爺ちゃん感が滲む島爺の休憩ショットで脱力させたりと、和やかなトークは絶え間なく続いていく。

 その後、スライドはみずから出演した“不可避”のMVの撮影現場へと移行。切り立った岩場における日中から夜までの作業を時系列のスライド&解説で追い掛けたあとは、その後に行われたスチール写真の撮影エピソードも。本人は疲れた身体に鞭打って真面目に回転飛びを繰り返したらしいが、ここで映し出されたのはさまざまなヴァリエーションで髪を振り乱した面白ショットの数々で、当人は爆笑。なお、OKショットは『御ノ字』のブックレットに使用されているそうなので、ぜひ確認してみてほしい。

 50分ほどのトークタイムで場を温めたのち、イベントの後半は弾き語りライヴへ。ひとりになった島爺が、アコギを手に歌いはじめたのは“誕生日の歌”。文字通り、〈君〉が生まれたことを祝う小品を歌い上げると、「これを歌うとね、ちょっと緊張がほぐれる」とポロリ。凄まじい音圧で聴き手を鼓舞する普段のバンド・セットとは異なった、何とも温かな空気が会場に注ぎ込まれる。そこに続いたのは、〈挫折を経験しても自身に正直な歌を歌い続ける〉といった島爺の身上が窺えるような2曲、“生爺のテーマ”と“もいちど”。ファルセットを交えながら、ときには優しく、ときには甘い情感を湛えて響く歌声に耳を傾けていると、楽曲の持つメッセージ性がじんわりと胸に沁み入ってくる。

 そして、「ムーディーなものを」という言葉に導かれたのはナナホシ管弦楽団のペンによる“よだか”。「何て曲を作ってくれたんだと。歌えば歌うほど好きになる。〈俺が作ったんちゃうか?〉って気すらする」とこの曲に対する思い入れを語る島爺。場末感の漂う歌謡性が、弾き語りというスタイルによく似合うナンバーだ。

 そこから、「ちょっと弾き語りではやったことない曲を」とおもむろに歌いはじめたのは“逆光”。オリジナルは〈絶望だって失望だって 抱きしめて今 前へ〉という島爺らしいフレーズから全速力で駆け出すBPM200超のメロディック・チューンだが、凪いだ歩調で紡がれるこのミディアム・ヴァージョンもとても良い。艶のある歌唱で描き出される青い心象風景に感じ入っていると、あっという間にラストの曲へ。世情を踏まえたマナーを守り、声を発さずに腕をクロスさせるジェスチャーで名残惜しさを表現するお孫さんたちに向け、やんわりと差し出されたのは“明日へ”だ。〈歌〉そのもので穏やかに別れを告げると、「ありがとうございました」と手を合わせ、島爺は退場していった。

 〈爆誕前夜祭「挙句ノ宴 -リベン爺-」〉の舞台裏や『御ノ字』にまつわるMV/アートワークの制作過程を知る資料的な体験と、島爺の楽曲の持つ叙情的な側面を堪能できたこの日のイベント。作品自体はもちろん、アーカイヴ配信が予定されている〈爆誕前夜祭〉に対しても新たな楽しみ方を見い出した、興味深い1時間半だった。