ソロ活動の開始から20周年の節目に届けられたひさびさの新作。そこには、メロディーメイカーとしての魅力と、独自のスタイルでレゲエを探求してきた実験性が詰め込まれていて……

継承しているマインド

 当代随一のレゲエ・キーボーディストであるHAKASE-SUNがニュー・アルバム『Let It Shine! Let It Shine!! Let It Shine!!!』を完成させた。LITTLE TEMPOやKODAMA & THE DUB STATION BAND、フィッシュマンズなど多くのバンドで活躍し、劇伴音楽の制作も手掛けたりとさまざまな活動を展開してきた氏だが、ソロ・アルバムのリリースは約5年半ぶりのこととなる。

 「ソロ・アルバムって、〈いま作らないといけない〉って思うタイミングが、ふとやって来るんですよね。今回そう思ったのが2020年の初頭かな。その後にコロナが始まってバンドの活動がストップしてしまった。時間はたっぷりありましたから、どういうアルバムを作るべきか構想を練りながら、ゆっくりと作りはじめました。それで、2021年がソロ・デビュー20周年、フィッシュマンズでデビューして30周年の節目なので、今年のうちに出そうと。次にいつソロ・アルバムを作れるか、今後の自分に何が起きるかもわからないという気持ちもあって、今回は15曲を目一杯詰め込みました」。

HAKASE-SUN 『Let It Shine ! Let It Shine !! Let It Shine !!!』 NGMR(2021)

 ホーン・セクションとギターに旧知のミュージシャンたちを迎える一方で、そのほかの演奏のすべてを自身で担っている。純度の高いソロ・ワークだからこそ生まれるグルーヴ感や音像がHAKASE-SUNソロ作品の大きな醍醐味だ。

 「〈生のバンドでやったら?〉ってよく言われるんですけど、それだと自分のニュアンスが出せない。だからドラムの打ち込みから鍵盤やベースの演奏、ミックスまでをひとりでやっています。自宅で制作していて、隣室はキッチンなので煮詰まってきたら気晴らしに晩ごはんの仕込みをしたり皿を洗ったりして(笑)。演奏するのも良し悪しを判断するのもすべてが自分なので、頭がおかしくなりそうになる瞬間もあるんですけど、ギターやホーン・セクションを入れてもらうことで客観性が出てきたり。ソロに関しては手作り感を大事にしているので、そういう方法論でやっているんです」。

 オープニングを飾る“Please Mr. Sunshine”“bFGF”“子午線ブリーズ ~ Meridian Breeze ~”の3曲は、いずれも心地良いリズムとメロディーを携えたオルガン・インスト・チューン。HAKASE-SUNらしいスウィートなサウンドの応酬にのっけから陶然とさせられる。

 「今回は、半分はこれまでのスタイルを継承したものにして、もう半分では新しいことをしようと考えました。最初の3曲はこれまでのHAKASE-SUNのイメージの楽曲かなと。いままではミックスでオルガンをあまり前に出してなかったんですが、そこはソロ20周年の作品だし、もっと堂々としよう(笑)、メロディーをしっかり聴かせようと」。

 この3曲には、HAKASE-SUNのメロディーメイカーとしての魅力が顕著に表れている。洒脱でロマンティック。凝った楽曲展開が美しく、シンプルでラフなレゲエとはまた違う独自の個性が見えてくる。

 「自分にとってメロディーとコード進行というのはとても重要な要素で、シンプルに作ってみたい気持ちもあるんですけど、自分の心を表現しようとすると、こういうメロディーやコードになってくるんです。やっぱり、メロディーと土台のリズムがしっかりしているものが後に残る。フィッシュマンズの楽曲もメロディーが抜群でリズムがしっかりしていて、だからこそ残るんだということをあのバンドで学びました。フィッシュマンズのマインドは、そういうところで継承しているつもりです」。

 

自分なりのスタンスで

 本作は、4曲目以降から聴き手を徐々に未知の領域へと誘っていく。“poco a poco (ここは何処?)”はそのタイトル通りのエキゾなムードとラウンジ・ミュージックのテイストを持ったナンバー。リー・ペリーが率いたアップセッターズあたりに通じるある種のいかがわしさが楽しい。

 「“poco a poco (ここは何処?)”は曲名がすぐに浮かんで、イメージしやすく作れた曲でした。いままでにない路線で、個人的にも愛着があります。アップセッターズにも、こういう変なタイトルの楽曲がありますよね。チープと言えばチープな、あの感じがおもしろい」。

 “SKA Glorioso~ARARAGAMA SKA”では、勢いたっぷりのスカを展開しつつ優美なフルートを織り込んだりする取り合わせの妙味が堪能できる。後半に進むにつれて暴れていくオルガンのプレイもアツい。

 「オルガンに関してはジャッキー・ミットゥーに学んだところが大きくて。彼はブルース・フィーリングとロマンティックなところを併せ持っていて、プレイがすごく大胆なんです。その荒削りな感じが“SKA Glorioso~ARARAGAMA SKA”では出せたかなと。普段のレコーディングは抑え気味で演奏していますけど、ここは一発録りで弾き倒しました。それからこの曲は、映画のサントラに書いたものをスカにリメイクして、さらに書き下ろしの曲を繋げています。“Peace Y'all”という曲も最初にスロウで入って後半はまったく別の展開になる。そういう自分なりの実験をいろいろ盛り込みたかったんです」。

 哀愁のダブが展開される“cafe a la dub”には、「30年来の長い付き合いで、ある意味で師匠みたいな存在」だというこだま和文を招聘。音数の少ないダビーな空間を、こだまの凛としたトランペットが切り裂いていく。

 「これは、もともとはTVドラマのために作った曲で、そのヴァージョンはまた雰囲気も違うんですけど、レゲエ/ダブのスタイルにしてみたら意外としっくり来て。そこにこだまさんが吹いているイメージを当ててみたら、ああ、これ完璧だなと。こだまさんはKODAMA & THE DUB STATION BANDでもいっしょにやっていますし、近い存在だからこそ声をかけにくいところもあったんですけど、今回はお願いしちゃおうかなっていう気になったんです。ミックスして出来上がった曲は、こだまさんも気に入ってくれたので安心しました」。

 本作唯一のヴォーカル曲が、ARIWAをフィーチャーした“Ambitious Love”。雄大な風景が想起される、スケールの大きなバラードに仕上がっている。

 「ARIWAさんはKODAMA & THE DUB STATION BANDでトロンボーンを吹いているんですけど、すごく音楽センスが良いので、ぜひ歌ってもらいたかった。声質が素晴らしいですよね。その若い才能の歌をもらえたっていうのはボーナスかな、と」。

 『Let It Shine! Let It Shine!! Let It Shine!!!』が提示するのはレゲエに根差したサウンドだが、リズム・プログラミングからミックスまでを独力で担うスタイルや、洒脱なソングライティングを活かした作風からは、ジャマイカ産のそれともまた違った世界が立ち上がってくる。ここにはデビューから30年、レゲエを探求して辿り着いたオリジナルな音楽が詰まっている。

 「レゲエに関してはまだまだ技を極めていかないといけないし、理想に近付きたいなといつも思っています。家で聴いている音楽も9割方ジャマイカン・ミュージックですし。ただ、そこで〈ひたすらレゲエを研究して真似る〉というやり方もありますけど、自分のやることではないなと。HAKASE-SUNなりの方法でレゲエをやりたい。自分のようなニュアンス、スタイルでやっている人は世界にもあまりいないだろうし、だったら伝統芸能的にこのスタンスで続けていきたいと思っています」。

『Let It Shine ! Let It Shine !! Let It Shine !!!』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXの2009年作『EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXX』(Minor Swing/トイズファクトリー)、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの2018年作『Sun and Rain』(BUS)、ウンチャカの2010年作『すきなうた うたったり』(IINODA)、Matt Soundsの2017年作『Matt Sounds』(OVERHEAT)、Xavierの2021年の7インチ・シングル『Call In Sick feat. chelmico/球体 feat. 塩塚モエカ』(Pヴァイン)

 

さまざまな場で音を奏でてきたHAKASE-SUNの歩み

 91年のメジャー・デビュー以降、レゲエ/ダブを基調としたサウンドで後人に多大な影響を与え続けているフィッシュマンズ。その一員としてシーンに登場したHAKASE-SUNは、95年に同バンドを脱退したのち、日本を代表するインスト・ダブ・バンド、LITTLE TEMPOへ加入。現時点での最新作はレイドバックしたラヴァーズが並ぶ『太陽の花嫁』だが、来年4月には6作目となるLP『山と海』のリリースも控えている。

 そのほかにメンバーとして名を連ねているプロジェクトは、今回のHAKASE-SUNの新作にもゲストで登場している重鎮、こだま和文が率いるKODAMA & THE DUB STATION BAND、レゲエ~ダブ~ファンク~アフロビート×アイヌの歌心で強靭なグルーヴを繰り出すOKI DUB AINU BAND、作品ごとにさまざまなゲスト・ヴォーカルを迎えて独自のレゲエ~ロック・ステディを聴かせる川上つよしと彼のムードメイカーズ、フィッシュマンズのカヴァーも披露している竹中直人&オレンジ気分などがあり、レゲエ・キーボーディストとしての信頼の篤さが窺える。

 また、2001年からはソロ名義での活動も開始し、これまでにベスト盤を含む10作品以上を発表。外仕事としては2008年の井口奈己監督作品「人のセックスを笑うな」で初めての劇伴を手掛け、今年はTVドラマ「珈琲いかがでしょう」のサントラを担当。さらにはTVCM曲の制作や、出演したドキュメンタリー「映画:フィッシュマンズ」が公開されるなど、演奏活動以外の動きも見せている。 *bounce編集部

左から、フィッシュマンズの91年作『Chappie, Don't Cry』(ポニーキャニオン)、LITTLE TEMPOのベスト盤『THE BEST OF LITTLE TEMPO“GOLDEN DELUXE”』(Sunshine)、川上つよしと彼のムードメイカーズの2013年作『ムードホリック ~泡沫の日々~』(RIDDIM ZONE)、OKI DUB AINU BANDの2016年作『UTARHYTHM』(Tuff Beats)、KODAMA & THE DUB STATION BANDの2019年作『かすかな きぼう』(KURASHI)、竹中直人の2011年作『竹中直人のオレンジ気分』(ビクター)、HAKASE-SUNが手がけた2008年の劇伴集『「人のセックスを笑うな」オリジナルサウンドトラック』(nowgomix)