RCサクセション/忌野清志郎のデビュー50周年プロジェクト第5弾として、忌野清志郎がホーンセクションを加えたフルバンド編成に回帰したアルバム『KING』(2003年)のリマスターに未発表の4曲とライブ音源、DVDを加えた『KING Deluxe Edition』が2021年11月24日にリリースされた。
『KING』のジャケット写真といえば、シックなスーツを着てなぜか素足にサンダル履きでこちらを見ている清志郎のなんともいえない表情が、タイトルとは対照的に感じられて不思議な印象がある。この写真を撮影したのが、写真家の佐内正史だ。限定盤には、未発表写真満載の全44Pの豪華写真集「ANGEL」が付属しており、当日のフォトセッションの様子が浮き彫りになっている。
今作の発売にあたり、佐内が10代の頃に出会ったRCサクセションの音楽から感じたこと、実際に撮影を通して感じた忌野清志郎について、独特の表現で語ってくれた。曲を聴き、写真を眺めつつじっくり読んでほしい。
“トランジスタ・ラジオ”を聴いて夜中にキュンとしちゃった
――まず、佐内さんが初めて〈忌野清志郎〉を知ったときのことを教えてください。
「中学のときに、(RCサクセションの)“トランジスタ・ラジオ”(80年)を聴いたんです。〈彼女 教科書 ひろげてるとき ホットなナンバー 空にとけてった〉……。
自分はいつも初夏に向かいたいなって思っているんです。冬はどうしても、終わりに向かうような感覚があって。すごく突き詰めて、いろんなことに深く潜って行ってしまうと、1人になって深い海の底にいるみたいな感じになってしまう。そこで生まれる音楽とか写真とかもあると思うんですけど、もうちょっと水面ぐらいのところにいて、没頭しないで広く見たいなと思っているんです。
〈彼女 教科書 ひろげてるとき ホットなナンバー 空にとけてった〉というのを聴いたときに、深く潜っちゃいそうだけど、潜らないで広がりがあるなあと思って、夜中にキュンとしちゃったんです」
――それは、ラジオから流れてきたんですか?
「そうです。没頭している感じがあるけど、あんまり没頭しないようにしようっていう……そういう感じですね、はははは(笑)」
――そういう気持ちを、“トランジスタ・ラジオ”を聴いたときに初めて感じたということですか。
「最近、ようやく〈そうだったんだなあ〉って、言葉になったなとは思うけど。昨日も“トランジスタ・ラジオ”を聴いていて、〈ああそうか、広がるなあ〉と思って」
――まさしく、〈ああ こんな気持ち うまく言えたことがない ない〉という歌詞そのものですね。
「うん、うん、〈ないあいあい〉ですよね。最高ですよね。本当にすごいなあと思って。中学の頃も今も、一番最高ですよ。本当に最高だと思う」
『シングル・マン』は〈光っちゃってる〉
――中学の頃の佐内さんにとって、清志郎さんの音楽は他とは全然違うものに感じたのでしょうか。
「今の方が、全然違うものに感じます。どんどん違うものに感じてますね。あのときは、RC以外にも他の日本の音楽を聴いたりとか、洋楽もいろいろ聴いてましたけど、今は他に聴く音楽があまりないですね。どれも冬に向かっている気がして。ビートルズとかも、ちょっと冬みたいだなあって。重たくて」
――10代の頃よりも重たく聴こえる?
「うん、今は。今度、何かやるじゃないですか(ドキュメンタリーシリーズ『ザ・ビートルズ:Get Back』のこと)? 友だちが、〈3夜連続で見よう〉って言うんだけど、なんか嫌だなあと思って。〈冬だあ〉と思って」
――「Get Back」は終わりに向かってるバンドの話ですもんね。
「音楽を突き詰めてぶつかっていくと、なんかそこで生まれる綺麗な塊があるんだろうけど、そういう純粋な塊っていうものを聴きたくないんですよね。もっと曖昧で、ラフなものの方がいいというか。
自分は〈光っちゃう人〉だから、光が強いと影が濃くなるので、なるべく光らないように、没頭しないようにしたいなって心がけているんですけどね」
――佐内さんの世代では、“い・け・な・いルージュマジック”(82年)が大ヒットしたことで、忌野清志郎を知る人も多かったと思います。表立ったイメージだとそうしたロックスターとして〈光っている人〉だと思うのですが、そのあたりはどうお感じですか。
「『シングル・マン』(76年)とか、あのへんの初期のRCってちょっと〈光っちゃってた〉気がするんです。でも、“トランジスタ・ラジオ”とか “い・け・な・いルージュマジック”とかは、光が鈍くなっていると思います。(清志郎は)もともと〈光の人〉だと思うんですけど、没頭しないぐらいのところでやめてる感じが、すごく良いんだなって思います。『シングル・マン』は、ちょっと冬に向かってる感じがするんです」
――あの作品はたしかに、没頭しまくっている感じがしますもんね。
「でもやっぱり、もうちょっと曖昧なアルバムの方が、明るくなれるんですよ。あんまり暗い気分になりたくないんですよね」