コラム

「ムント」シリーズBlu-ray BOXから考える、京アニの原点がいまなお心に響く理由

「ムント」シリーズBlu-ray BOXから考える、京アニの原点がいまなお心に響く理由

「ムント」シリーズが豪華Blu-ray BOX化

京都アニメーションの歴史における隠れた重要作にして、同社の原点とされる「ムント(MUNTO)」シリーズ。主人公の日高ユメミ(CV:相沢舞)と異界の王ムント(CV:小野大輔)という異なる世界を生きる2人が時空を超えて出会い、世界の崩壊に立ち向かうことで、ユメミの〈心の成長〉が描かれる、というファンタジー作品だ。

『「ムント」シリーズBlu-ray BOX』CM

元々はOVAで、「MUNTO」(2003年)と「MUNTO 時の壁を越えて」(2004年)としてDVDで発表されていた。その後、2009年、同作に新たなカットと完全新作の物語である第3章を加え、キャストや音楽を再レコーディングし(ちなみに、音楽は名匠・神前暁とmonacaによるもの)、全9話のTVシリーズ「空を見上げる少女の瞳に映る世界」と、その第6話後半から最終話までをブラッシュアップした劇場版「天上人とアクト人 最後の戦い」としてよみがえった。今回、特典が満載の豪華な3枚組Blu-ray BOXとしてリリースされたのは、そのTV版と劇場版である。

木上益治, 相沢舞 『「ムント」シリーズBlu-ray BOX』 京都アニメーション/松竹(2021)

 

「ムント」はなぜ京アニの原点なのか

本作がなぜ京アニの原点なのかというと、同社のスタッフがオリジナル企画を立ち上げ、製作から販売までのすべてを自社で行う〈京アニプロジェクト〉の第1弾として製作された作品だからだ。

「MUNTO」が発表された2003年というと、同社が初めて元請制作を担ったTVアニメである「フルメタル・パニック? ふもっふ」を作った年であり、まさに京アニが現在に至るまでの道のりを歩みはじめた年だった。また、「天上人とアクト人 最後の戦い」は、初の京アニ製作による劇場アニメだった。

原作モノについての評価がきわめて高い京アニだが、そう考えると、「ムント」シリーズはオリジナル企画である名作「たまこまーけっと」(2013年)や「たまこラブストーリー」(2014年)に通じ、さらに京都アニメーション大賞受賞作をKAエスマ文庫から出版することで原作を自主供給する現在の体制の、まさに原点になっているのである。

 

リアルな日常とファンタジックな非日常の鮮やかな対比

さて。そんな「ムント」シリーズの「空を見上げる少女の瞳に映る世界」と「天上人とアクト人 最後の戦い」を改めて観てみると、まずは純度の高いバトルファンタジーと、どこかセカイ系的な物語が醸し出すゼロ年代らしいムードが、かえって新鮮に感じられた。最近のアニメにこういう物語ってあんまりないな、と思ったのである。ユメミのふわっとした夢見がちな少女像もいつしか失われてしまったキャラクター造形のように感じたし、ゼロ年代当時のアニメ/ゲーム的な想像世界にふと思いを馳せてしまう。

また、京都に実在する風景が落とし込まれた日常パート、ユメミらの学校生活の描写は淡々としながらもリアルで、とても京アニらしい。それと並行して描かれるのは、ムントらが戦いを繰り広げる天上の非日常世界だ。共通点をいっさい持たない2つの世界の対比は、非常に鮮やかである。

そして、ユメミとムントが手を伸ばしあい、交わらないはずの2つの世界の間にトンネルが穿たれることによって繋がりが生まれ、何かの予感だけがずっと続いていたような物語は抑圧から解放されて、ピークに達する。

ハイライトは、そんなカタルシスが描かれるTVシリーズの第6話だろう。世界が崩壊していき、危機に瀕するなか、小野イチコ(CV:堀川千華)は天上の世界に向かおうとする親友のユメミを引き止める。しかし、ユメミは「私、バイト代もらったら、買い物に行きたいんだ。ネットでね、かわいいシャツ売ってるお店見つけて、イチコにも教えてあげなきゃって。一緒に行ってくれるよね」とその状況には不釣り合いな、あまりにも日常的なセリフを言って、家族や親友たちがいる現実世界を守るために、ムントとともに異世界へと飛び込んでいく。このアンバランスなコントラストこそがこのアニメらしさだ(異世界を幻視する夢見がちでどこか現実離れした少女が、心を決めて次第に覚醒していくさまを表現した主演の相沢舞の演技は名演で、小野大輔いわく「ユメミそのもの」)。

 

「世界は心でできている」

ユメミ、イチコ、今村スズメ(CV:今野宏美)のキャラが立った3人の少女たちの友情も「ムント」シリーズの軸になっているが、なにより、みずからが主体的に行動することによって未来を切り開くんだ、というあまりにもストレートすぎるメッセージを送る物語のまっすぐさに心を惹かれた。

ユメミがその決心をするまでの背景には、自分は何者なのか、これから何者になり、何をするのか、何ができるのか、という思春期特有の未来に対する漠然とした不安感、不安定感がある。何者にもなれそうな全能感と、まだ何者にもなっていないという流動性や不定性。その間を揺れ動いて震えつづける感情にケリをつけて、無限の選択肢のなかからひとつのものを選び取り、まず一歩を踏み出すことによって、自分で未来を作っていく。

「ムント」シリーズはかなりファンタジックな衣装/意匠をまとっている作品ではあるものの、そんなユメミの姿が描かれているからこそ、その物語が発するメッセージはとてもユニバーサルでシンプルだ。クライマックスで語られる、「世界は心でできている」という言葉が象徴するとおり、人の心の在り方次第で、どんな意志を持つかによって、未来はどんな形にも変わっていくこと。18年前にスタートした作品がいまも輝いている理由は、「ムント」シリーズのそんなメッセージにあると思う。

※このコラムは2021年12月10日に発行された「intoxicate vol.155」に掲載されたレビューの拡大版です

 


RELEASE INFORMATION

木上益治, 相沢舞 『「ムント」シリーズBlu-ray BOX』 京都アニメーション/松竹(2021)

発売日:2021年12月22日(水)
品番:SHBR-0648
仕様:Blu-ray Disc 3枚組
価格:30,800円(税込)

発売元:京都アニメーション
販売元:松竹

収録作品
「空を見上げる少女の瞳に映る世界」
「天上人とアクト人 最後の戦い」

DISC 1
【本編】
・「空を見上げる少女の瞳に映る世界」(第1話~第5話)
【特典】
・OP絵コンテギャラリー(※初収録)
・DVD発売時CM
・デジタルギャラリー
・第1話~第5話オーディオコメンタリー
〈出演〉木上益治監督ほかスタッフ多数

DISC 2
【本編】
・「空を見上げる少女の瞳に映る世界」(第6話~第9話)
【特典】
・ノンテロップOP
・ノンテロップED
・WEBラジオセレクション(※初収録)
〈出演〉第4回:相沢舞、白石稔、内田彩
第6回:相沢舞、白石稔、内田彩 ほか
第23回(最終回):相沢舞、白石稔、内田彩、木上益治監督
・第6話~第9話オーディオコメンタリー
〈出演〉相沢舞、堀川千華 ほかスタッフ多数

DISC 3
【本編】
・「天上人とアクト人 最後の戦い」
【特典】
・劇場用予告、上映時TV-CM、DVD発売時CM
・2019年再上映時予告映像
・舞台挨拶映像
〈出演〉相沢舞、小野大輔 ほか
・ドラマCD
・劇場版オーディオコメンタリー
〈出演〉相沢舞、小野大輔 ほか

外装特典
・新規描き下ろし三方背BOX
封入特典
・復刻&新規ブックレット
・特製原画ブック

※デザイン・商品仕様等は、予告なく変更になる場合がございます
※特典映像の一部はSD画質で収録しております

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