海外の気鋭クリエイター3組が描き出す、世界の命運を握る〈はみ出し者〉たちのための音楽
西暦2052年、世界は天才科学者のスキナーが開発した、あらゆる苦痛から解放される鎮痛剤〈ハプナ〉によって、かつてなく平和な時代を迎えていた。だが、失踪したスキナー自身の告白により、その薬には服用者を3年後に死に至らしめる罠が仕掛けられていることが発覚。人類が助かる道はただ一つ、スキナーが持つワクチンを入手すること。訳あり揃いのエージェントチーム〈ラザロ〉は、世界のどこかにいるスキナーを見つけ出すことが出来るのか――。
アニメ監督・渡辺信一郎の最新作「LAZARUS ラザロ」は、我々の日常と隣り合わせかもしれない近未来の物語を描いた、SFサスペンス要素の強い作品だ。音楽の造詣が深く、菅野よう子が音楽を担当した「カウボーイビバップ」ではジャズ、Nujabesらが参加した「サムライ・チャンプルー」ではヒップホップにフォーカスし、「キャロル&チューズデイ」ではフライング・ロータスをはじめ国内外のアーティストを起用した渡辺が、今作で白羽の矢を立てたのが、カマシ・ワシントン、ボノボ、フローティング・ポインツの3組。管弦楽器にクワイアを交えた荘厳なテーマ曲“Vortex”をはじめ独自の土着感とスピリチュアリズムを持ち込んだカマシ、初期の幻想的なブレイクビーツから近年のダンスミュージック的アプローチまでを統合したボノボ、ゾンガミンらを迎えて生演奏の要素を強めたフローティング・ポインツ。それぞれジャズや電子音楽の領域で先進性を確立している三者の音楽が、本作で違和感なく同居しているのは、彼らのジャンルを越境する個性が、渡辺の構築したコスモポリタンな世界観と共鳴しているからだろう。主人公のアクセルが纏う自由な気風と、物語の始まりと結びを飾ったボノボ制作/ジェイコブ・ラスク歌唱のブルース“Dark Will Fall”に象徴される人生の苦みが、本作とその音楽には通底している。このたびレコード化されるサントラでも、ぜひそれを感じ取ってほしい。


