長編アニメーションの作家・観客・業界を育てる堀越謙三氏に聞く
「アニメっていうのはとんでもない世界ですよ」と堀越謙三は語気を強める。いうまでもなく、堀越は映画製作配給興行会社ユーロスペースの代表であり、ヴィム・ヴェンダースやレオス・カラックスとの交友もつとに知られるミニシアターブームの立役者であり、映画美学校や東京藝大大学院映像研究科の創設に奔走し、藝大では教授を務めた(現在は名誉教授)功労者だ。日本映画界のレジェンドのひとりと呼んで差し支えないだろう。
その堀越が今取り組んでいるのが、なんとアニメーションなのである。3月15日~20日に開催される新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)は、今年で早くも第3回。実行委員長を務めているのが堀越だ。どんなヴィジョンをもってこの映画祭に臨んでいるのだろう……と話を聞き始めると、いきなり冒頭の発言をくらった。
「監督を育てようとしても、アートアニメーションを教える人はいても、ストーリーアニメーションを教える人はいない。それに、今の劇場用アニメは8割以上がマンガが原作になってるでしょ。だから脚本家はいらないし、育たない。評論家やライターも10人いない。批評をのせる媒体もない。そして、日本のアニメファンってディズニー以外は海外のアニメはまったく見ないでしょ。逆に、声優の人気だけはありすぎる(笑)」
そんなどっちを向いても真っ暗闇な状況をなんとかしてやろう、ということのようだ。その話に深入りする前に、堀越がアニメ界へ足を踏み入れた理由について聞いてみよう。
「アニメーションは観てたんですよ。それこそ60年代の〈アニメーション三人の会〉(久里洋二、柳原良平、真鍋博)とかから、大友克洋さんや今 敏さんとかまで、作家性のあるものはね。藝大を退職してから、新潟の開志専門職大学からアニメ・マンガ学部の立ち上げを手伝ってほしいという話をいただいて、結局その後も教授として残ることになっちゃったんです」
現在アニメは日本の映画館の売上の6割を占めており、栄華を誇っているかに見える。だがその内実は、堀越の目から見ると問題山積だった。
「アニメが大ヒットしているといっても、ほとんどはTVシリーズの劇場版でしょ。オリジナルの劇場用長編アニメを作ることはほとんどできてないし、そういうタイプの監督が今撮りづらくなってもいる。世界でもそういう人は多くないけれど、日本だと10人もいないんじゃないかな。だから、国際映画祭をやることで花火を上げて、新しい製作のパラダイムを作るきっかけにできないかなと思ってるんです」